INTERVIEW(4)――新しいチェンバー・ポップ
新しいチェンバー・ポップ
――でも、決して難解で雰囲気ありきの作品なんかじゃない。今回のアルバムはポップスとしてかなり強度の高い作品になっています。言ってみれば、すごくわかりやすい仕上がりになっている。ストリングスなどをふんだんに用いたアレンジも印象的だし、サウンド面だけ取り出せばすごくカラフルで、洗練されたシティー・ポップ調になっているのに驚かされる人も多いと思います。
「いや、実は僕、ここのところ、ずっと筒美京平さんの作品が好きで。いま、いちばんいっしょにやっていただきたい方なんです。(筆者に向かって)筒美さん、知り合いじゃないですか~(笑)? もちろん、筒美さんの作品を聴くきっかけになったのは90年代の小沢健二なんですけど、ここ数年で再度ストリングス・アレンジに興味を持つようになったというのもあるんです。ギターのフレーズを考えるより、管弦のアレンジをどんどん積んでいったりするほうが肌に合ってるような気もしてきたんですね」
――それは、蔡くんのもともとのソングライティングに管弦のアレンジがフィットするということに気付いたということでもある?
「そうかもしれないですね。『オリハルコン日和』以前は、詩とコード進行とメロディーとを中心にしてリズム主体で作っていたりしたんですけど、『オリハルコン日和』の半分くらいかなあ、去年のソロもそうですけど、作り方が確かに変わってきましたね。頭からおしまいまで全体を見据えて作るようになったんです。そうすると、管や弦のことまでも考えるし、ただ歌とメロディーだけが真ん中にあればいいって感じじゃなくなっていくんですよね。まあ、僕はまだまだスキルはないですし、管弦楽のアレンジもミディを利用しているんで、勉強していかないといけない部分が多いんですけど、たぶん作業として性に合ってるって気はしますね。自分の作る曲が変わってきたというよりかは、そういうアレンジのほうが合ってるという感じがしますね。例えば今回のアルバムに入っている“夕景スケープ”のアレンジは基本僕がやってるんです。最終的に武嶋(聡)くんに各楽器の音域とかを見てもらったりはしましたけど、自分でやることによってよりおもしろさを実感するようにはなりましたね。もっともっと管弦のアレンジを自分でできるようになっていきたいです」
――それに気付いたきっかけはありますか?
「まあ、筒美さんもそうですけど、いまの若い世代におもしろいアレンジャー、アーティストが増えているじゃないですか。特に海外ではニコ・ミューリーとか。ニコ・ミューリーはサム・アミドンの作品に関わっているので知ったんですけど、すごい目から鱗っていうか、〈あ、これこれ!〉って思って。それまで自分で進めてきた作業とシンクロしたところがあったんですよね。ニコ・ミューリーってアカデミックな作業を消化した上で、さらに自由で柔軟な方法論でアレンジを手掛けているじゃないですか。そこに刺激を受けて自分でももっともっと興味を持つようになったっていうか、自分がやろうとしていることの少し先をそういう人たちが走っていたって感じ。ヨンシーのソロもあったし、流れとして新しいチェンバー・ポップが出てきてるなあって実感があったんですよね。トータスとかマイス・パレードとかもそういう感覚を持っていたと思うんですけど、いまの若い人たちはもっと空間を作る感じなんですよね」
――オーケストラル・アレンジ自体は昔からある方法論で、ポップスの世界とも常に密接したところにずっとあったわけですが、現在のそうした若い世代のクリエイターたちの仕事にしかない感覚をどういうところに感じたりしますか?
「確かにこれまでのストリング・アレンジとは確実に違いますよね。言ってみれば、6分の曲だったら6分の間に見せることができるイメージを補完するようなやり方なんですけど、楽器の使い方が独自なんですよね。まあ、まだ勉強段階なんでなんとも言えないところはあるんですけど、ニコ・ミューリーに関しては、僕はかなり影響を受けていると言えますよ。アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズもそうだし……あそこにもう一つの空間がしっかり生まれているのがわかりますからね、彼らの音楽って。美しい異空間をもう一つ作るような感じなのかなあ。そういう音作りが自分でもできるようになれればいいなと思いますね。だからいまはマーラーとかも聴いていますよ。あとは、まあ、とにかく筒美さんとごいっしょさせていただきたいなと思ってますんで、どうぞよろしくお願いします(笑)」
bonobos“あなたは太陽”PV