LONG REVIEW――bonobos 『ULTRA』
生活のなかで響き渡るシンフォニー
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〈3.11〉以降、多くの音楽家たちが〈いま伝えるべきメッセージとは何か? いま響かせるべき音とは何か?〉という命題に向き合ってきた。例外なくbonobosも、さらに言えば詞・曲を手掛ける蔡忠浩も、きっとそこで逡巡しながら新しい曲を生み出そうと試みたはずだ。
2年8か月ぶりのオリジナル・アルバム『ULTRA』は、いわば〈生活そのものから響いてくるシンフォニー〉とでも呼びたくなる作品だ。前作にも参加したキーボードの野村卓史(グッドラックヘイワ)や、ライヴもサポートするサックス奏者・武嶋聡をはじめとするおなじみのホーン・セクションに加え、今作ではストリングスやホルン、ユーフォニウムといった室内楽的なアンサンブルを採り入れているが、その柔らかで温か味のある音像は、人と人とが集まって共鳴し合うことのできる喜びを表しているかのよう。嵐のようにカオスな展開で終わっていく“O' Death”から一転してカラリと視野が開ける“夕景スケープ”の清々しさ、そして、生命の凛々しさを謳うファンファーレのような“あなたは太陽”や“Go Symphony!”。あたりまえのように過ごしていた日々の営みのかけがえのなさや美しさを丁寧に紡いでいく歌が、実にいきいきと躍っている。
かつてテレンス・トレント・ダービーが『Symphony Or Damn』というタイトルのアルバムを発表したことを思い出すが、世間の暗いムードに押されてダンマリを決め込んだり無関心を装うのではなく、日々の小さな喜びもちょっとした不安も、ためらわずに声にして伝えることで、それはいつしか大きなシンフォニーとなって高らかに響き渡る──そんな祈りにも似た強い想いが、このbonobosの新作には感じられてならないのだ。