Alice Nine 『“9”』
[ interview ]
変化を求めていた季節を通過し、〈自分たちなりの王道〉を見つめ直した前作『GEMINI』において、自身の持つポピュラリティーとクリエイティヴィティーをコンセプチュアルに表現してみせたAlice Nine。それから約1年ぶりとなるニュー・アルバム『“9”』は、前作を踏襲する王道と新たなる挑戦を、彼らの資質であるスケール感と優美さで彩った作品だ。
大地の鼓動のようなグルーヴ感を持つ“Heavenly Tale”、直球のスピード・メタル“the Arc”、沙我がポエトリー・リーディングで〈いま〉を伝える“ハロー、ワールド”、将(ヴォーカル)が「この曲の終わり方みたいに死にたい」とすら語る、ドラマティックにあらゆる物事を肯定したエンディング曲“すべてへ”などから成る全11曲。ここでは、5人にとっての道標であろう『GEMINI』を越えた〈その先の音〉が鳴らされている。
壮大な世界を形成する短編小説集
――今回のアルバムは、前作の『GEMINI』があってこそのアルバムだな、と。前作は、プロデューサーの岡野ハジメさんの〈王道であれ〉という方向性と、バンドのクリエイティヴィティーをコンセプチュアルに提示した作品だったと思うんですけども、今回の『“9”』は王道の楽曲も、新たなチャレンジとも言える楽曲も自然に並んでいて。
沙我(ベース)「ホント、すべて偶然なんですよね。今回は、ツアーやいろんなことが重なってて、アルバムを制作する時間がこれまででいちばん限られてたんですね。だから『GEMINI』ほど考える時間がなかったっていうのがまずあって。でも、そのぶん、自分がそのときに思ってたことや考えてたことが、そのままポンと出ちゃったっていうのはありますね。だから、地に足のついてるアルバムだなと思います」
――『GEMINI』以降に“BLUE FLAME”“Heart of Gold”“虹の雪”と3枚のシングルをリリースしてますが、制作がかぶっていたりもしたんですか?
沙我「はい。3枚目の“虹の雪”の制作が終わるか終わらないぐらいのときにすでにアルバムの作業にも取り掛かっていたんですけど、その頃から始まるツアーもあったんで」
――そうすると10月ぐらいですかね? では今作に収められているのは、その頃から作られた新曲ですか?
ヒロト(ギター)「ほとんどが新曲ですね。1曲目の“Heavenly Tale”以外は全部」
――前作のときは岡野さんに相当鍛えられたようでしたが、今回はいかがでした?
沙我「岡野さんは、人間的には変わらずお茶目な方なんですけど、改めて思ったのはAlice Nineと合ってるな、って。ファンキーな部分だったり、僕ら5人にはない要素を補ってくれるし、それで意外と録れちゃうっていう。前回のときはホントに〈師匠〉っていう感じで、いまもその感じはあるんですけど、なんかちょっと距離が近くなった気がしましたね。お兄さんみたいにメンバーとだんだん近くなってきてるような感じがしたので、今度はシングルっていう、アルバムとはまた違う土俵でもいっしょに仕事したいなっていうふうに思いましたね」
――将さんはいかがですか?
将(ヴォーカル)「岡野さんは、歌の先生としても一流なんですよ。だから個人的には、ちょっとおかしな言い方をすると、いちばん最後に“ハロー、ワールド”を録ったとき、〈あ、歌上手くなってる〉って思いましたね(笑)。三週間ぐらいの間で上手くなったな、って(笑)。メロディーの捉え方と言葉の置き方みたいな部分で意識改革させてもらいました」
――ヒロトさんは?
ヒロト「バランス感覚と、あとは音楽と深く向き合っていかなきゃならないな、っていう意識をすごく感じましたね。僕が作った“花霞”という曲はもともと8分ぐらいあったんですけど、アルバム全体として見たとき、シングル的な曲ばっかり他に並んでるようなアルバムだったらそれでもアリだけど、ここではそうじゃないんじゃない?って言われて、〈確かに〉って」
――それで尺を詰め直して?
ヒロト「そうですね。考え直して、流れで聴いてみて、ああ、これでよかったんだなって思いましたね。いままでの経験がそうさせてるんでしょうけど、そういうバランス感覚が、ずば抜けてる方だなって。逆に、僕のもう一つの曲“リニア”のときは〈そのまんまで行け〉みたいな感じで。Alice Nineは自分たちだけだと結構神経質に考えてしまったりするんで、ホントにいい方が近くにいて、いい作用をもたらしてくれてるって思いますね。このアルバムも、岡野さんがいなかったらこの期間でこう仕上がってなかったと思います」
Heavenly Tale
――では、ここからは1曲ずつ伺おうと思いますが、まずは“Heavenly Tale”。この曲は前からあったということですね?
沙我「これは『GEMINI』の選曲会のときからあって、唯一のストック曲でした。はじめから1曲目にしようと思って作ってた曲なんですけど、『GEMINI』では冒頭の“I. ”の存在があったから、“Heavenly Tale”は一度お蔵入りになったんですよ。でも、それからもずっと残ってて」
――確かにオープニングにぴったりの曲ですね。個人的には、プライマル・スクリーム『Screamadelica』の“Moving On Up”なんかを思い出しました。コンガを交えたグルーヴ感と、大らかに開けていく歌世界から、ですかね。
沙我「ああ、あの曲もメロディー的にはゴスペル風ですからね。そういう意味では同じですよね」
――あと、漠然と思い浮かべたのは〈生命の躍動感〉みたいなものでしたが、楽曲を作った時点でのイメージはどういうものでしたか?
沙我「そうですね……作るときのイメージは、やっぱりゴスペルでしたね。ゴスペルって、聴いてると魂を感じますよね。そういう音楽を、って考えながら作ったらこうなった(笑)。意外と僕、昔からこういう曲をちょいちょいやってて。メロディーで言うと、実は“the beautiful name”(2009年作『VANDALIZE』に収録)も自分的にはゴスペルのつもりで作ってるんですけど、今回はその最新版的な意味合いですね」
――そして歌詞は確か、曲に呼ばれて書かれるんですよね?
将「はい。自分はこのアルバムを短編小説集みたいにしたかったので、そういう物語の幕開けというか……この曲を聴いたとき、すごく壮大な物語の始まりっていう印象を受けたのでその幕開けっていう意味と、あと『“9”』っていうアルバム自体と最後の“すべてへ”っていう楽曲が、僕には人生――人の一生を表しているように感じられたので、いろいろな始まりを予感させるような歌詞、というイメージで書きました」
――ところどころに出てくるワードからのイメージもあるんですけど、どこか聖書みたいだなと。聖書も言ってしまえば、短編小説のような構成ですし。
将「そうなんです。若輩者が学のために、最近、聖書を読んでたんです。言われてめっちゃ嬉しいです(笑)」
――この曲で言えば〈アダムとイヴ〉という端的な言葉がありますけど、聖書から具体的に広がるイメージはありました?
将「話が飛躍しすぎていて、すごく身近に感じられるエピソードはあんまりなかったんですけど、信仰心というか、何かを強く信じることによって、人間は何にでもなれるんじゃないかっていうことをすごく感じましたね。それが2曲目の“the Arc”では、曲に呼ばれたっていうのもあったんですけど、ジャンヌ・ダルクの話を自分的な解釈で、〈ただの女の子だけど、信じる力によってすごくたくさんのことを動かす力になる〉って歌いたくなったきっかけにもなって」
――ヒロトさんはいかがでした? この曲を初めて聴いたのは1年ほど前になるかと思いますが。
ヒロト「『GEMINI』の制作の頃にスタジオで1回合わせたりとかしてたんで、そんなに新しい曲っていうイメージはなかったんですけど、でも、出来上がったものを聴いてみて、この曲の含んでいる空気感を出してるのは、僕らの世代のバンドさんのなかでもウチらぐらいなんじゃないかな、っていう手応えがありますね」
――ラストはギター・ソロでフェイドアウトしていきますね。
沙我「僕、この曲の結末を作れなかったんですよね。デモがそのギター・ソロで終わってて、〈もう作れません!〉って。そしたら岡野さんに〈これでいいんだよ〉って言われて〈あ、これでいいのか〉って(笑)」
将「歌詞も〈不完全なままで/僕は何処へ行こうというのだろう〉ですし」
沙我「その通りだね(笑)。曲もそうだった。〈僕はどこに行こう?〉って。それがそのまま曲になったっていう(笑)」
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