インタビュー

LONG REVIEW――Alice Nine 『“9”』



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将にして「この曲の終わり方みたいに死にたい」と言わしめたエンディング曲“すべてへ”。Alice Nineの5枚目のアルバム『“9”』は、ピアノとストリングスを従えた重厚なバンド・サウンドで幾度のテンポ・チェンジを乗り越え、常に華麗で、それでいて勇壮であり続けるこのマーチで幕を引く。いまの彼らの総力を結集した楽曲にして、最上のスタンダードである。

堂々たる王道を往くポピュラリティーを大きく解放させながらも、全体の象徴となったのは約11分に及ぶ組曲仕立ての3部作“GEMINI-0-eternal”“GEMINI-I-the void”“GEMINI-II-the luv”であった前作『GEMINI』から1年。3枚のシングルを経て届けられた本作は、前作では二面性として見せていた〈王道〉と〈実験精神〉をより滑らかに表出させた仕上がりだ。

流れるようなベースラインとコンガを交えたリズムが生み出すプリミティヴなグルーヴと、雄大なメロディーが始まりを予感させる“Heavenly Tale”に始まり、鋼鉄のリフとブラスト・ビートが乱れ飛ぶ“the Arc”、2本のギターが劇的なアンサンブルを見せる“GALLOWS”とヘヴィー・メタル~ハード・ロック・ナンバーが続く冒頭から、将のハイトーン・ヴォイスが切なさを募らせるミディアム・チューン“花霞”へ。

そして、哀愁漂う歌謡ロック“BLUE FLAME”、ストレートなメロディック・パンク“Heart of Gold”、清澄なバラード“虹の雪”といったシングル3タイトルを合間に挿入しながら、中盤ではファンキーなキメを合図に沙我のポエトリー・リーディングと将の挑発的な歌唱が交錯する“ハロー、ワールド”といった新機軸を。そこからは、スピード感と躍動感に溢れた“リニア”、ハード・エッジなサウンドのなかでサビの泣きメロが際立つ“Apocalypse [It’s not the end]”と加速していき、昂揚感をどこまでも巻き上げながら“すべてへ”で感動のフィナーレを迎える全11曲。

彼らの楽曲の美点は、大バコがよく似合うスケール感と上品さだと思う。殺伐としたサウンドですらどこか優美で、楽曲そのものがドラマ性を孕んでいる。将によるある種ロマンティックな歌詞も、(そのドラマ性を読み取って書いているという部分もあるが)だからこそ映える。

シアトリカルなライヴにも定評のあるバンドだが、前作の『GEMINI』以降は特に、銀盤に刻み込まれた楽曲そのものが、壮大な世界を立ち上げるパワーを備えている。そして、その壮大な〈世界〉へ聴き手を誘導する力――元からの資質であるスケール感を華やかなポップ・ミュージックへと変換する力が、現時点で最大限に投影された作品が今回の『“9”』である。ともすればチープになりかねない〈圧倒的な肯定〉を湛えた“すべてへ”が説得力あるエンドロールとして鳴り響いていることが、その証左となるだろう。


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掲載: 2012年02月22日 18:05

更新: 2012年02月22日 18:05

文/土田真弓