INTERVIEW(5)――この曲の終わり方みたいに死にたい
Heart of Gold
――別の価値観が合わさったときに生まれるポップさもありますからね。そして続いてはシングルの“Heart of Gold”。これはビックリしました。Alice Nineがストレートなメロディック・パンクを!って。
将「そうですね。虎はすごくいい意味で、自分の性格とか葛藤とか希望とかを音楽に託さない人で……これって語弊ある?」
沙我「チャラいとか?」
将「それは……(笑)」
――より語弊があるのでは……(笑)。
将「いつも一歩引いたところで作っていて、それが聴きやすさだったりストレートさだったりに現れる。そういういいところはありますね」
ヒロト「ちょっと引いてるぶん、聴く側は入っていきやすいような気がしますね。オーディエンスといっしょにその曲の意味を作っていける気がします」
将「情念とかがあんまり込められてない。それはあえてだと思うんですけどね」
――歌詞も開けたものになっていますね。
将「そうですね。歌詞を書いた時期が、震災と復興を意識せざるを得ないような時期だったんで……僕たちは具体的な何か、お金だったりを動かせたわけじゃないですけど、僕たちの音楽でしか前向きになれない人もいてくれるのかなって考えたり。リスナーの皆さんからメッセージをもらってそういうことをすごく感じていたので、そういう人が一人でもいるんなら、僕たちがこういうことを歌う意味もすごくあるなと思って、僭越ながら背中を押せたらって。そういう想いを書いた歌詞ですね」
すべてへ
将
――そこから最後の“すべてへ”に繋がるわけですが、この曲は王道と言えるポピュラリティーとスケール感のある楽曲でありながら、〈GEMINI〉的な目まぐるしい展開もあって……あと個人的に感じたのは、祝福と肯定のイメージ。アルバムの終着点にこういった楽曲を持ってこれたっていう点が、やはり前作の『GEMINI』あってこそなのかなって思った理由なんですね。
沙我「それはそうですね。ホント、おっしゃられた通りのことだと思うんですけど、この曲は絶対、『GEMINI』やその前のアルバムがなかったら入らなかったと思うんですよね。そもそも作ろうと思わなかった。以前のAlice Nineは、いまいる場所よりもっと羽ばたきたいとか、違う場所へ行きたい、変わりたいみたいな意識がすごく強くて、結構冒険してたんですよね。その頃だったら、この“すべてへ”のような――いまならすごくAlice Nineらしい曲だと言い切れるんですけど、当時にこういう曲を持ってくることは絶対なかったと思ったんで、一回りしたのかなっていう意識はありましたね。前のアルバムとこれまでの経験を自然と踏まえたうえで、自分たちのスタンダードを作れたのかなって」
――『GEMINI』で挑んだことをスタンダード化できるっていうのはバンドとしての成長でしょうし、これほどにドラマティックな楽曲は、演るほうを選ぶと思うんですよね。
沙我「そんなにドラマティックだと思ってないんですよね」
――あっ、そうですか?
沙我「普通かなって思ったんですけどね(笑)」
――昂揚感が途轍もなかったですけどね。言葉もそうですけれど、前作を作って、ツアーをやって、その間にシングルを3枚出して、そうやって歩みを進めてきた自分たちをすごく肯定している印象があったんです。
沙我「過去の自分たちをいまのAlice Nineに還元できてるって思いますね。ひたすら変わりたいって思ってた時期を過ぎて、新しいモードに入ったっていうか」
――そういうところを言葉で表現しようという意識はありましたか?
将「やっぱりライヴの風景を思い浮かべて作った曲なんだろうなって思ったし、僕たちをこれまで支えてくれている方々の顔を、みんなが笑い合ってる顔をイメージしながら書いていたのが、すごく肯定してる言葉になっていったのかなっていうふうに思いますね。“すべてへ”っていう曲は、ホントに1曲から人の一生みたいなものを感じて……ヴォーカルとピアノだけだったところにいろんな音が重なっていって、高まっていって……僕、この曲の終わり方みたいに死にたいなと思って。そういう素敵な感覚を覚えて……すべてに感謝して、すべてを愛して前に進んでいきたいっていうふうに思えた。そう思える活動をしてこれたんだなって感じた曲でしたね」
――エンディングに相応しい楽曲だと思うんですけど、一方で何かが始まる雰囲気もある。ここからまた次に繋がっていくのかなっていう印象もあるんですけど……ヒロトさんはいかがですか?
ヒロト「昔の沙我くんだったら絶対作りたくない曲ですよね。あの、ウチらのライヴでもう6年ぐらいやり続けてる“春夏秋冬”っていう曲があるんですけど、出来た当時はプレイしてもあんまり手応えがないっていうのが正直あったんですね。でもライヴを重ねていくなかで観てきた景色だったり、得た感情だったりが曲のなかに入り込んでいって、曲の〈中身〉が生まれたというか。バンドの活動全体もそうだと思うんですけど、何もないところからスタートして、でもそのときどきに出来たものを積み上げていったものがちゃんと繋がってる。“すべてへ”は、そういうところが出た曲だなって」
――これまでのバンドとしての道程がここに凝縮されている。
ヒロト「はい。ある種〈GEMINI〉とかもそうかもしれないですけど、プレイしてるとお客さんの顔が浮かんでくる。“春夏秋冬”は、リハとかでもそういう感じなんです。プレイ的にも簡単だし、最初は何も思わなかったんですよね。だけどいまは一音弾くだけでそういう景色が浮かぶようになっていて、“すべてへ”はそういう部分が詰まってる曲じゃないかなって。で、この曲から新しく聴いてくれる人の層がさらに広がっていったらいいなって思いますね」
――そう思えるような楽曲が最後に収められているアルバムだからでしょうか。タイトル『“9”』はすなわち、いまの自分たちとも取れますね。
将「そうですね。Alice Nineだとこのまま終わってしまうような気がしたんで『“9”』に。これはセルフ・タイトルという意味合いでもあり、Alice Nineは来年9周年を迎えるので、そこに向かってみんなでまた歩いていきたいっていう気持ちを込めたものでもあり。その二つの意味での『“9”』ですね」