Heavenstamp 『Decadence-E.P.+REMIXES』
[ interview ]
ベーシストの脱退を経てトリオ編成となったHeavenstampが、4枚目のEP『Decadence-E.P.+REMIXES』を完成させた。ディスコ/ポスト・パンクやシューゲイザーに独自解釈を施し、シンフォニックに鳴らす――そんなコンセプトのもとにこれまで3作品を発表してきた彼らだが、今回の新作で提示してきたのは、言わば、彼らの原点と初期衝動だ。
昨年5月に共同プロデューサーのラッセル・リサックも交えて行ったワンマンと、年末に開催されたツアーでも披露されていた冒頭の2曲は、徐々に音楽性を固めながらこのバンドが歩んできた道程のスタートラインにあたる2曲。そこにメロディーの美しさを前面に押し出した(EPの制作時点では)最新の2曲と、もはや定番とも言えるリミックス曲――アニマル・コレクティヴ、DJ Uppercut、zAkが参加の3曲を加えた全7曲となっている。
いよいよフル・アルバムの制作も視野に入れはじめた様子の3人。その前哨戦となる今作について、Sally#Cinnamon(ヴォーカル/ギター)とTomoya.S(ギター)に訊いた。
頭を抱えながら、それでも踊る
――今回のEPのタイトル曲“Decadence”って、もともとは“LOVELESS”という曲ではなかったですか?
Tomoya.S「そうですね。俺、これまで〈LOVELESS〉っていうテーマの曲を複数作っていて、そのなかでもこの曲を〈Decadence〉って呼んでたんですね。それをもう、タイトルにしてしまって」
――とすると、5月の終わりにラッセルさんと共演したワンマンで演ってましたよね?
Sally#Cinnamon「Heavenstampを結成して3回目ぐらいのライヴでもうやってました(笑)」
――そうか。確かTomoyaさんの前のバンド時代の曲と伺っていたような気が。
Tomoya「そうなんです。それを5月のライヴで演って、そのときにラッセルも入れた5人体制のHeavenstampのヴァージョンが出来上がっていたので、その勢いでそのまま録って」
――では、ベースは脱退されたShikichinさんですね。
Tomoya「そうですね」
――楽曲自体はずいぶん前の曲になると思いますが……。
Tomoya「6年……7年ぐらい前の曲になるのかな」
――作ったときに、何かイメージしていたものはありました?
Tomoya「作ったときに明確にあったかどうかは憶えてないんですけど、いま改めてこの曲と詞を見たうえでその当時の心境を考えると……結果的には結構ポップな仕上がりになってるんですが、タイトルだったり、歌詞の内容だったりが〈退廃的な世界のなかで希望を見い出す〉っていうことをテーマにしているので、曲的にも――理論的に言うと、メジャーとマイナーっていう明るい/暗いの概念が、ちょっとイビツな作りになってるんですね。明るい音程のところに半音ずれた、ホントだったらないはずの音がずっと鳴ってたり。それで歌詞とのバランスが取れてるような気がします」
――違和感をあえて挿入している?
Tomoya「そうですね」
――当時の心境というのは?
Tomoya「その頃はギター/ヴォーカルでやってたっていうのも関係があると思うんですけど、自分にとってのロックのあり方って、〈頭を抱えながら、それでも踊る〉みたいなところで。この曲は、まさにそういうものを集約したかった曲なんじゃないかなって」
――頭を抱えながら踊る、それがロック。
Tomoya「なんか面倒臭いですけどね(笑)。パーッとやろうぜ、っていうロックの人もいるかもしれないけど、自分にとってはそうじゃないので。レディオヘッドが好きだったりとか、そういう影響があるのかもしれないですね」
愛なき世界
――楽曲は起伏があまりない作りで、だけどビートは跳ねてるっていう。不思議なグルーヴ感がありますけど……そもそも、どうしてそんなに〈LOVELESS〉っていうテーマの曲を作ってたんですか?
Tomoya「わからないですけど……それはやはり、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインからじゃないでしょうか(笑)。マイブラの『Loveless』は、邦題だと〈愛なき世界〉じゃないですか。その〈LOVELESS〉っていう言葉があることによって、自分が抱える不安感とか、世の中に対して持ってる不信感とかとの折り合いがついたというか……ちょっと美化できるっていう。〈LOVELESS〉は、自分のなかでそういう役割だったのかなって気がします。それで、いろんな曲にそのタイトルが付いていって」
――〈愛なき世界〉という言葉に対して、楽曲でいろんなアプローチをしているということですか?
Tomoya「そうですね」
――そのなかでも“Decadence”は退廃的な部分がもっとも表に出ていた曲だということですが、今回のタイミングで、EPのタイトル曲として持ってきたのはどういう理由で?
Tomoya「“Stand by you”が持っていたポスト・パンク的なものだったり、“Waterfall”みたいなシンフォニックでシューゲイズなもの、その二つこそがHeavenstampにとって重要な武器だとは思うんですけど、自分では、その武器を生むための〈骨〉になってるのがこの“Decadence”だと思っていて。“Stand by you”や“Waterfall”っていう曲が生まれたルーツって言うんですかね? それは数年前に“Decadence”のような曲が生まれていたからで、そこからいろんな曲が派生していったんだっていう。そういう存在の曲をこのタイミングでリリースしたかったんですね」
――EPを出すごとに、Heavenstampの歩んできた道をチラ見せじゃないですけど……。
Tomoya「あ、でもそういう感じですね。シングルっていうのはそういう存在だと、リスナーとしても思うので。側面、側面、側面ですね。あくまでもそれは、その後にアルバムがあるからこそなんですけど」
――この曲はラッセルさんといっしょに録っていて、アレンジにも関わっているそうですけど、だいぶ変わりました?
Sally「変わりましたね。だいぶポップに……簡単に言うと、おもしろくなったっていう(笑)」
Tomoya「原曲は、自分のなかでは良くない意味でシリアスすぎたというか、もともとはグランジっぽい重さもあったんですね。だから歌詞の内容が痛々しい叫びにも取れるようなところが若干あったんですけど、もっと曲ありきで、そんなに感情が剥き出しにならない仕上がりになったっていうのは、彼のアレンジがかなり効いているからで」
――もともとはもっと歪んでたんですね。
Sally「はい。ギターの太い音がバーン!とくるようなイメージだったんですけど」
Tomoya「ラッセルとジェイミー(・エリス:ブロック・パーティvsコパイロッツにおけるラッセルの相棒)が、〈ギターをもう少し軽くして、もっとアッパーにしようよ〉って。それがすごくよかったと思いますね。歌詞と照らし合わせてメジャー/マイナーがイビツに作られてるものをもっと際立たせるような、少しヘンテコな……って言ったらちょっと言葉が軽いかもしれないですけど、そういうアレンジになったんじゃないかな。それが俺はすごくおもしろいなと。結果、ポップに聴かせる要因になっているんだろうなと思って」
――確かにポップなんですけど、どこか異物感があるんですよね。
Tomoya「不協和音とかが鳴ってるので、そういうのが単純にあるかもしれないですね」
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