INTERVIEW(3)——今井さんって、こんなんだったっけ?
今井さんって、こんなんだったっけ?
星野英彦
――精神的にも深い話ですね。さて、5月23日にシングル“エリーゼのために”がリリースされましたが、これは新レーベル。Lingua Soundaからの第一弾音源ということも踏まえての選曲だったんですか?
今井「いや、全然そういうことではなくて、いろいろ曲が出来上がっていくうちに、この攻撃的な感じでいこうと。曲自体はシンプルすぎるぐらいのリフで、キメがあって、サビがあって。ライヴでもノリのいい感じですね。詞はとある人と酒の席で話しているときに、彼が〈最近のロックって、やれ絆とか、感謝とか、そういうのが増えてるよね〉〈決して悪いことじゃないけど、震災後は特にそればっかりになってるのが、ちょっとね〉〈ロックって、もっと悪かったり、エロかったりしたよね〉みたいなことを言ってたんですよ。もちろん、自分もそう感じてたんだけど、後日、歌詞を書くときに、自然にそれが出てきたんですね。あのときの会話、言葉が自分のなかでも残ってたのかなって」
――それが“エリーゼのために”というタイトルになったのが興味深いですね。
今井「詞をバーッと先に書いて、さてタイトルをどうしようかなとなったときに……RCサクセションに“エリーゼのために”という曲があって、それはエリーゼ、つまりお嬢さんはピアノを習わされているけど、ホントに好きなのは太くて硬いギター、ロックなんだよって詞なんですけど、その内容がすごくピッタリかなと思ったんですね。タイトルのインパクトもあるし。ただ、そのタイトルに決定した後に、インタヴューとかで、すごく面倒臭くなりそうだなと予想はしてたんですけどね(笑)」
――絶対に訊かれる話でしょうからね(笑)。櫻井さんは“エリーゼのために”をどのように捉えてます?
櫻井「シングルをどの曲にしようかといったときに、自分たちだけではなく、これからいっしょにやっていく徳間の人たちと決めることができたのが大きかったですね。新しいレーベルを立ち上げたという意味でも。そこから世間の皆さんに聴いてもらって、〈華があっていいですね〉と言ってもらえているのは嬉しいですし、さっき今井さんが言ったように、やっぱりロック・バンドというか、自分たちはこうであったらいいなと思ってますね」
――7月4日にリリースされた第2弾シングル“MISS TAKE~僕はミス・テイク~”は、いつの間にか引き込まれて、じっくり聴き入ってしまう曲ですよね。こちらはどのようなモチーフで書かれたものだったんでしょう?
今井「ある舞台を観に行ったんですけど、原作は〈OZ〉っていう漫画なんですね。題材としては、人間が作った人工知能、レプリカントが自我を持つという、まぁ〈ブレードランナー〉的なところもあるんですけど。そのレプリカントもテイク・ワン、テイク・ツーといろいろあるなかで、そのうちの一体がミスのテイクとされるんだけど、自我を持ったがために〈僕はミス・テイクなのか?〉みたいにこぼすくだりがあって、その失敗作という意味での言い回しにすごくグッときたというか。そこからもらったインスピレーションでタイトルを決めて、歌詞を書いていったんですね。そこで曲はすごく金属的な、激しい感じのところに、ものすごく優しいメロディーがのっかるのがいいかなと。最終的にはホントに聴かせる感じで……歌の感じもそう思いますね」
櫻井「キレイなメロディーだと思います。歌のモチーフについてはインタヴューの席で聞いたので、歌入れのときは、個人的な想像と情景といっしょにマイクに向かったんですけどね」
――歌詞の背景を聞いて、改めて思うところもありました?
櫻井「うーん……逆に人間的だなと思いますね。人間というのは、何かやっぱり人間的なものを映したいのかなと。個人的には、〈今井さんって、こんなんだったっけ?〉っていう(笑)」
樋口豊
――それはどういうことですか(笑)?
櫻井「まぁ(笑)、内容は〈ブレードランナー〉的なことだったりするんでしょうけど、それこそ、人間味というよりは、もっとメカニカルだったり、デジタルだったりというのが大好きな人だと、皆さんは思っているかなと思うんですね(笑)。でも逆に、この曲にはヒューマニズムをすごく感じるんです、僕は知ってますけど(笑)。BUCK-TICKの側面というのは、そういった今井さんの世界だったり、僕のウェットな世界だったり、星野のメロディーだったり、多面性はありますけど、その一つの面からまたいろんな面が見えている印象はありますね」
――この一連の制作段階で、何か影響を受けた音楽もありました?
今井「特にはないかな。でも、気が向いたら、いろいろおもしろそうだなというものが引っ掛かればいいかなと、タワレコも行くし、配信サイトでチェックもするし。最近はあんまりないけど、デヴィッド・リンチの『Crazy Clown Time』。印象に残ってるのはあれぐらいかな。暗いというんじゃないけど、あの色合いは好きですね。あとはガービッジの『Not Your Kind Of People』。あのポップ感はさすがだなと思いました」
櫻井「僕は今回ということではないですけど、もうほとんどCDショップで、アンビエントやワールド・ミュージックのあたりをウロウロしている時間が長いですね(笑)。わりとフレンチなもの、あとはイタリア、スペインのようなラテンっぽいもの。ジャケ買いなので、タイトルや名前がわからないんですけど、暗く、ゆるく、深い感じのもので。ブライアン・イーノからあっちの感じが好きですね」