LONG REVIEW――小林太郎 『MILESTONE』
2年半前、インディーズからのファースト・アルバム『Orkonpood』を出した時に小林太郎に会った。〈曲作りで影響を受けたのは?〉と訊くと、ビートルズとニルヴァーナを入口とし、〈レッド・ツェッペリン、ブラック・サバスなどの70sハード・ロックやPファンク、アリス・イン・チェインズやサウンドガーデンなどの90sグランジ〉という、90年生まれとしてはかなりディープな答えが返ってきた。音もまさにそんな感じで、歪んだギター・リフを核とし、スロウにはファンクやブルースの要素が窺え、アップテンポの曲にはグランジ直系のダーティーなパワーがあり、時折非常にメロディアスなバラードを聴かせてくれる。しかも、カート・コバーンやエディ・ヴェダー(パール・ジャム)などにも一脈通じる、ものすごい迫力のシャウトの持ち主だ。こいつはとんでもない新人が現れたと思ったものだ。
彼のルーツを読者に紹介しようとして、前置きが長くなりすぎた。新作『MILESTONE』の話をしよう。サウンドの骨格は、以前と大きく変わりはない。激しいリフ主体のクラシカルなハード・ロックに、グランジ風の半音階をアクセントに加えた1曲目“飽和”から、時代がどう変わろうと〈オレはこういうロックが好きです〉という妥協なき姿勢が見え、それは2曲目“惰性の楽園”にも引き継がれる。ただ少し変化が見えると思ったのは、スロウ/ミドルテンポの“鴉”“白い花”“永遠”の3曲で、重く歪んだバンド・サウンドをベースにしつつ、和風情緒を濃厚に感じさせる美しいメロディーを強調したところは、まぎれもなくメロディーメイカーとしての進歩だろう。ヴォーカルも、破れかぶれの豪快さというよりも、情熱とパワーをメロディーに沿ってコントロールする、深みのあるものに変わってきている。
過去1年間のバンド活動は、サウンドの面での充実というよりも、〈バンドがやりたい〉という憧れに基づく、メンタルな要素が大きかったのだと思う。ふたたびソロで立つことを決意した本作に迷いは一切感じられず、〈自分の価値を今こそ知りたいんです〉という“飽和”の歌詞に象徴されるように、言葉の選び方も非常にリアルで切実だ。メジャー・デビューを機に、さらに自分をさらけ出しながら突っ走ってほしい。