インタビュー

LONG REVIEW――ART-SCHOOL 『BABY ACID BABY』



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過去10年間のART-SCHOOLの作品は、木下理樹のルーツであるニューウェイヴ、シューゲイザー、グランジなどをベースとし、そこにバンドの現状と時代のエッセンスを注入して清新な音を作り上げる、そのバランスの上にあったと思う。そういう意味で言うと、この傑作アルバム『BABY ACID BABY』を成立させた重要なポイントは2点。木下が敬愛してやまないスティーヴ・アルビニ所有のエレクトリカル・オーディオ・スタジオでの録音――つまり木下理樹のルーツの追求と、中尾憲太郎(ベース)と藤田勇(ドラムス)という強力無比なリズム隊の加入――つまり最高のメンバーを得てバンドが再起動した現在の勢いとが、非常にセンシティヴで、ダークで、アーティスティックな音選びのセンスは変わらないのに、パワーとドライヴ感がケタ違い、という奇跡を生んだのだと思う。

クラシカルなハード・ロック風のギター・リフを、すさまじい熱量を発するリズム隊が煽り立てながら加速していく1曲目の“BABY ACID BABY”を聴くだけで、何かヤバイことが始まった感覚に鳥肌が立つ。さらにテンポアップした“SHAME”における中尾の豪快なプレイは、ギターを超えたリード楽器の位置にあると言っても過言じゃない。と思えば“CRYSTAL”は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやジーザス&メリー・チェインを彷彿とさせるジャングリーなギター・サウンド+甘いメロディーのポップ・チューン。その次の“Chelsea Says”は、藤田の背中にキース・ムーンの守護霊がついているとしか思えない、クレイジーなドラミングに茫然とする――と、この調子で1曲ごとに見せ場が続く。よりクールで静謐な空間がお好みならば“Chicago, Pills, Moemories”を、ダウナーな気分に沈みたければ“Fall down(ecstasy in slow motion)”を、大いなる感傷に包まれた静寂と轟音のドラマに浸りたいならラスト曲“We're So Beautiful”を薦めよう。ART-SCHOOLの楽曲の振り幅は、新しいメンバーを経てさらにワンランク上がった感がある。

変なことを言うようだが、あまりにも強烈な個性を持つメンバーゆえに、この最強の編成がいつまでも続くとは言い切れない予感もする。聴くなら、観るなら、現在しかない。刹那の快感がいま、ART-SCHOOLのロックをさらに妖しく激しく輝かせている。


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掲載: 2012年07月25日 18:00

更新: 2012年07月25日 18:00

文/宮本英夫