インタビュー

JAMES IHA 『Look To The Sky』



JamesIha



[ interview ]

98年、まだスマッシング・パンプキンズ在籍時にリリースされたジェイムズ・イハのファースト・ソロ・アルバム『Let It Come Down』は、10年以上経過したいまなお〈いい歌〉を求める音楽ファンの間ではマスターピースとして愛され続けている。リリース当時、スマパンのファン以上にギター・ポップ~ネオ・アコースティック系のリスナーたちに歓迎されたその作品は、イハというソングライターの繊細さ、フェミニンさ、それより何よりポップソング・ラヴァーとしての無垢な横顔を伝えてくれるものだった。

そして、今年3月、14年ぶりとなる新作『Look To The Sky』を発表してファンを喜ばせたのは記憶に新しいが、続いて今度は坂本龍一+細野晴臣や小山田圭吾+砂原良徳+TOWA TEIら豪華メンツが揃った高橋幸宏のトリビュート・アルバム『RED DIAMOND tribute to yukihiro takahashi』に“Where Are You Heading To?”で参加。今年の〈フジロック〉にも出演するなど、精力的な姿を見せている。さらに、9月にはくるり主催の〈京都音楽博覧会〉に出演することも決定した。そんな多忙を極めるイハに、『Look To The Sky』を通じたソングライティング哲学について訊いた。寡黙でシャイな男がその美学について、ついに口を開く……。



こういう歌い方しかできない



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――今日はあなたのソングライティングについて訊きたいと思っていまして……。

「上手く話せないんだよね、そういう質問って……」

――じゃあ、まずは高橋幸宏のトリビュート・アルバムのことからいきましょうか。彼とは前回の来日時に初めて会ったそうですね。

「そう、雑誌の対談でね。もちろん彼の作品は前から聴いていたから会えて光栄だった」

――高橋幸宏の作品を最初に認識したのはいつのことだったのでしょうか?

「大学の時かな。最初はYMOのアルバムだった。でもその時はユキヒロだけがどうというのはなくて、YMOの一人という印象だったし、ブライアン・イーノとか他のアーティストと同列で聴くような感じだったね。サカモト、ホソノとの違いとかそういうのは、最初はほとんどわからなかったよ。ただ、やっぱり彼の曲には日本人特有のセンシティヴな感覚があるなあとは思っていた。それに、世代も違うし国籍も違うんだけど、ソングライティングの伝統を守りつつも既成概念を壊そうとしているのが彼の作品から感じられて、すごく嬉しかった覚えがある。しかも、そのうえで広く多くの人に聴いてもらいたいという開かれた意識も感じられた。そのあたりは僕の姿勢とすごく共通していると思う。会った時に彼ともそういう話をしたよ」

――まあ、ジェイムズには日本人の血が流れていますからね。

「それもあるだろうね。あと、これは日本のEMIの担当ディレクターに指摘されたことなんだけど、僕とユキヒロは歌い方や声のトーンが似てるところがあるみたいなんだ。確かにそうかもしれないなって思うよ」

――ええ、繊細な表現が似合うヴォーカルですね。あなたのソロ・アルバムが広く人気を集めているのも、そのソフトな歌声が魅力のひとつつだからではないかと思います。

「そうなのかもしれないね。ただ、こういうタッチの声が自分で気に入ってるかといえば決してそうではなくて、これしかできない、こういう歌い方しかできない、というのが本音なんだよね(笑)。ユキヒロもそうなのかどうかはわからないけど、僕は自分のこの歌い方をしょうがなく受け入れてるところはあるんだ」

――かつてエリオット・スミスもそう話してましたよ。本当はもっとガッツのある歌い方をしたいんだけど、どうがんばってもこういう線の細い声にしかならないんだと。

「ああ、気持ちわかるな」

――だから、その声のトーンを活かすためのアレンジやサウンド・プロダクションに工夫をしないといけなかったと。

「うん、それも同感だ」

――でも、そのおかげで表現できる歌世界は間違いなくありますよね。あるいは、こういう声じゃないと歌えない曲もあるのではないかと思います。

「それはあるだろうね。僕の作品もそういう部類のものだと思う。もちろん、そんなことを狙って曲を作ったりはしないけど、こういう歌い方だとどうしても繊細な気持ちを歌にすることが増えるね。こういう声質で攻撃的なことを歌っても説得力ないし(笑)」


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掲載: 2012年08月15日 17:59

更新: 2012年08月15日 17:59

インタヴュー・文/岡村詩野