INTERVIEW(3)——とにかくグッド・メロディーを心掛けている
とにかくグッド・メロディーを心掛けている
――アーティストとしてNYという街に惹かれるいちばんの理由はどういう部分ですか?
「一言で答えるのは難しいね。複合的な理由があるけど、やっぱり文化度/文化指数が高いという点じゃないかな。他の街だったら自分から何か刺激的なことを探したり作ったりしないといけないんだろうけど、NYはそこに住んでいるだけで常に新しい出会いや刺激がある。それに、いろんな仕事をしている人が混在しているのもおもしろい。あの街でライターをやってる友達と話したりしていると、もうそれだけで自分まで賢くなったような気になるってもんさ(笑)。知性も刺激もあるところなんて他にそうそうないと思うよ」
――ただ、あなたの書く歌詞は……いや、メロディーもそうですが、穏やかでロマンティックです。なぜそういった刺激的な街に暮らしているのに、このようなタッチの作品になるのでしょうか?
「そうだねえ……自分じゃわからないけど、まあ性格なのかもしれない。NYにもいろんな人がいるからね。あの街は刺激的ではあるけど、同時にすごくメランコリックでロマンに溢れたところもあると思ってるんだよ。そこに暮らして初めて体感できることなのかもしれないけどね。傍目ほどにはファイティングな街じゃないよ」
――ええ、例えば同地に住むミュージシャンであるマグネティック・フィールズのステフィン・メリットは、世界的にそのユニークでロマンティックな歌詞が高い評価を得ています。
「ああ、ステフィンの歌詞はおもしろいね。僕も大好きだよ。彼の歌詞にはユーモアのセンスがある。僕もそのあたりはすごく意識しているところなんだ。ウィットというかユーモアを歌詞に織り込むのは大事だからね。特に僕の音楽……少なくともソロで発表している作品には攻撃的なところがほとんどないから、こういうユーモアやロマンティックな部分がとても大切になってくる。自然とそういう側面が強調されるんだ」
――だからあなたの曲はメロディアスなものが多いのでしょうか? 同じNYでもブルックリン周辺にはかなりリズミックな若いバンドが多くいますが、あなたのソロ作はリズムから攻めていくようなアグレッシヴさもない。徹底的にメロディーを主軸にした歌ものになっていますね。
「それはあると思う。僕は基本的にいいメロディーの曲が好きなんだ。もちろんダンス・ミュージックも好きだし、そういう音楽を作ったりもする。ブルックリン周辺のバンドのなかには好きなものも多いよ。でも自分のソロ作を作る場合はどうしてもいいメロディーをメインにした曲作りになっていくね。これは単に好みなのかもしれないけど、そういう音楽があってもいいじゃないかとは思うよ」
――そこに、メロディアスなポップ・ミュージックの歴史を継承していこうという意識はどの程度ありますか?
「そうだなあ……ミッションみたいなものは感じたことないけど、やっぱり伝統はちゃんと残していかないといけないとは思うよ。もちろん斬新で前衛的な曲、刺激的でリズミックな曲もNYの音楽文化を作ってきたわけだし、いろいろな要素が入り込んでいるからこその街であって、だからおもしろいんだよね。でも一方で、NYはブリル・ビルディング・ポップを生んだ場所でもあるんだよね」
――ええ、60年代初頭、マンハッタンはブロードウェイのブリル・ビルディングという建物に入っていた多くの音楽出版社の専属だったソングライターたちが生んだポップスのことですね。シンシア・ウェイルやバリー・マン、もちろん、キャロル・キングとジェリー・ゴフィンら本当に数々の優れたソングライター・チームがそこから巣立っていきました。
「その通り。みんな素晴らしいソングライターだった。彼らを単なる商業作曲家だという人もいるけど、当時そこから本当に多くの素晴らしいポップスが生まれたのは事実なんだ。それは忘れてはいけないと思うな。正直言って、それを何とかして僕が伝え残していこうなんて強い意識はないけど、NYの音楽は必ずしもアッパーでアグレッシヴなものばかりじゃないということは、若い世代に知ってほしいとは思う。あの街に住んでいて、普段からこんなことばかりを考えたりすることはないけど、僕が影響を受けたグッド・メロディーの多くはこのブリル・ビルディング・サウンドなんだ。スマッシング・パンプキンズでは僕はかなり攻撃的なギターを弾いていたし、いまもそういう音楽しか好まないミュージシャンだと思われているかもしれないけど……決してそんなことはないんだよ。まあ、僕の作品を聴いてもらえればわかることなんだけどね――いやあ、ホント、自分の音楽のことを言葉で語ったり取材で答えたりするのは難しいな。なかなか上手い言葉で説明できないよ」
――あなたはとてもシャイですからね。
「そう。基本的にはね」
――でも、音楽は決して寡黙ではなく、ロマンティックで雄弁です。
「そうであると嬉しいね。とにかくソロではグッド・メロディーを心掛けているよ。というか、自分のこの声、性格などを踏まえるとどうしてもこういうスタイルになるというのが正直なところだね。そこもユキヒロと共通しているかもしれないな」
――じゃあ、60歳になってもこういうタッチで作品を作ることになりますね。
「かもしれないね(笑)。ユキヒロみたいに繊細にね」