インタビュー

INTERVIEW(2)――歌い手としてのターニング・ポイント



歌い手としてのターニング・ポイント



Saka



──“15分”は槇原敬之さんが曲提供していますが、槇原さんとはどんなふうに曲作りを?

「槇原さんとはいろんな話をしましたね。いろいろ教えてもらったし。すごく覚えているのが、〈1曲でも、一人でもいいから、お墓まで持っていってくれるような曲を作りたい〉と話し合ったことです。歌った人とか、作った人の存在が忘れられても、誰かに長く愛される曲を作りたいっていう気持ちはいまもありますね」

――そういう意味では、美雨さんがカヴァーしている“The Never Ending Story”などは、美雨さんにとって〈お墓まで持っていく〉ぐらい大好きな曲と言えますかね。

「そうなんです! 4歳の頃、家族でこの映画を観に行ったんです。で、ちょっと怖いシーンとかあると、父親のイギリス土産の熊のヌイグルミを抱きしめたりしてました(笑)。すごい感動して、その後、何度も何度も観たんですよね」

――今回、収録されるにあたって歌い直したそうですが、それはどうして?

「この曲は24歳の頃にカヴァーしたんですけど、それに満足してなくて。この際、歌い直そうと思ったんです。ライヴでは必ずのように歌ってきたので、表現方法とか、息遣いとか、当時とは全然変わってきてるし。今回のヴァージョンは、いまライヴで歌っているそのままの感じです」

――サード・アルバム『朧の彼方、灯りの気配』(2007年)からは3曲選ばれていますが(“オーパス&メイヴァース”“Swan Dive”“あかりの気配”)、このアルバムはミトさん(クラムボン)、オオヤユウスケさん(Polaris、ohana)、藤戸じゅにあさん(THE JETZEJOHNSON)といったメンツが曲を提供していて、すごくアーティスティックな作品に仕上がっていました。美雨さん自身もお気に入りの作品なのでは?

「そうなんですよ。この作品あたりからミュージシャンとしての意識が強くなったというか……遅いんですけど(笑)。これまであえて入れないようにしていた自分の感情とかも歌に反映させるようになって。この頃は精神的に落ち込んでいたんですけど、歌うことによってずいぶん助けられたんです。歌に対する意識とか、身体に対する意識も変わった時期ですね」

――身体に対する意識というのは?

「スポーツ選手のように、歌い手として身体を作っていかなきゃいけないということです。それで自分の歌=身体ということに気付いて歌うことが楽しくなってきた。スポーツと同じで、身体をちゃんと使うと元気になってくるんですよね。エンジニア/プロデューサーとして参加してくれた益子(樹)さんと出会えたことも大きい。益子さんのスタジオ環境は普通とちょっと違うんですよ。独特のエンジニアリングで、その場の空間を感じる、豊かで肉体的な音を録ってくれる。益子さんとはアレンジも含めていっしょに考えながら曲を作っていったので、このアルバムをきっかけに音楽を作る現場が楽しくなってきたんです」

――いろんな意味でターニングポイントだったんですね。

「そうですね。おおはた雄一くんに出会ったのもこの頃で。2人で〈おお雨〉というユニットを組んだりして、そのことでライヴが増えて、それでまた歌に対する意識が変わったりもしましたね。おおはたくんとやる時はギター一本と歌だけ、素っ裸なのでごまかしは利かないし、いつもお互いドキドキしながらやってるんですけど、それですごく鍛えられるし、うまくいった時は喜びも大きいんですよね」

――おおはたさんの代表曲“おだやかな暮らし”をカヴァーされていますね。

「大好きな曲で、おおはたくんといっしょに歌っているうちに、なんとなく自分の歌みたいに思えてきて。カヴァーしたっていう気にはならないんですけど(笑)」



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掲載: 2013年06月26日 18:00

更新: 2013年06月26日 18:00

インタヴュー・文/村尾泰郎