インタビュー

坂本美雨 『miusic ~The best of 1997-2012~』



SakamotoMiu4



[ interview ]

昨年、デビュー15周年を迎えた坂本美雨。その軌跡をまとめた初めてのベスト・アルバム『miusic ~The best of 1997-2012~』が完成した。坂本龍一、矢野顕子という誰もが知るミュージシャンを両親に持ちながら、マイペースに自分の歌──〈miusic〉を探し続けてきた彼女。そこにはさまざまな人との出会いがあり、その出会いから新しい歌が生まれた。そんな歌の数々を2枚に渡って収録した本作は、彼女の人生を歌で綴ったドキュメンタリーと言えるかもしれない。デビューから現在に至るまでの彼女の音楽人生を、アルバムを通じて振り返ってもらった。



私が歌手だということを知らない世代に伝えたい



――初めてのベスト・アルバムですね。ここにはどんな思いが込められているのでしょうか。

「去年、デビュー15周年だったんですけど、レコード会社から〈一回まとめてみない?〉っていう話をもらったんです。それまでベストを出すなんて考えたこともなかったんですけど、最近ラジオ番組をやるようになって、そこで初めて私のことを知ってくれた方もいて。私が歌手だということを知らない新しい世代のファンも増えてきたし、〈こういう歌を歌ってきました〉ということを知ってもらいたいなという気持ちもあったので、ベスト盤を出すのもいいかもしれないと思ったんです」

――選曲はどんなふうに?

「時系列に並べていこうというのは最初に決めていて。好きな曲を挙げていくときりがないので、全曲リストアップして身近なスタッフに好きな曲に○を付けてもらって、その○が多かった曲を選びました」

――みんなの意見が反映されているんですね。1曲目はやはりデビュー曲“The Other Side of Love”(坂本龍一 featuring Sister M名義で97年にリリース)ですが、お父さんに〈歌ってみない?〉って言われて何も知らされないで歌ったら、それがデビュー曲になったそうですね。

「そうなんです。吹き込んだ後に、それがドラマ(『ストーカー 逃げきれぬ愛』)の主題歌としてシングルになることを知らされて。その頃はただの高校生で、気楽な感じで歌ってましたね」

――でも、この曲を歌ったことが美雨さんの人生を大きく変えた。

「当時、音楽の仕事には興味を持っていたんですけど、自分は裏方に就こうと思ってたんです。でも歌ってみて、音楽に溶け込めたことがすごく気持ちが良くて。それが忘れられなくて、歌を続けていきたいと思うようになったんです。その決意を両親に伝えた時のことはすごく覚えてますね」

――ご両親の反応は?

「勧められはしなかったです、猛反対ではなかったけど。まあ、そう甘いものじゃないことは身をもって知るだろう、と思ったんじゃないでしょうか。とりあえず高校は卒業しろと。でも私、〈音楽をやりたい〉って言った瞬間に思わず泣いたんですね。これまで、親にはそういう姿を見せたことがなかったんですけど」

――気持ちが溢れ出してしまった。

「そうですね、これまで封じ込めてきた思いだったので。ミュージシャンというのは両親のように特別な才能がないとやっていけないと思っていたし、自分にはその才能はないと思っていたんです。でも、やっぱり音楽がやりたいという気持ちが溢れ出した時に、どうしても我慢できなかった。そういう自分の欲とか感情を親に見せたことがなかったので、親に自分の意志を伝えたのは大きなステップだったと思います」

――そして、お父さんである教授とファースト・アルバム『DAWN PINK』(99年)を制作するわけですが、ベスト盤にはそこから“The letter after the wound”“in aquascape”の2曲が選ばれています。お父さんとの共同作業はいかがでした?

「NYの父のスタジオに休みを使って通い詰めたんです。スタジオは生まれ育った場所なので親しみはありましたが、そこで自分が中心になっているのは不思議な感じでしたね。でも、とにかく楽しかった」

――アルバムにはSUGIZOさんが参加されていて、その交流から後に“sleep away”というシングル曲も生まれます。当時、美雨さんはSUGIZOさんの大ファンだったとか。

「憧れだった人が自分のために曲を書いてくれる。〈なんなんだ、これ?〉みたいな不思議な体験でしたね(笑)。すごく幸せでしたし、その曲に歌詞を書くことで勉強にもなりました。SUGIZOさんはお兄ちゃんみたいな存在なんです。自分が意志を持って歌手になっていく成長過程で、いろんな音楽を教えてもらったり、遊びに連れていってもらったり、励ましてもらったり。そうした付き合いのなかで“sleep away”という曲が出来たんです」



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掲載: 2013年06月26日 18:00

更新: 2013年06月26日 18:00

インタヴュー・文/村尾泰郎