LONG REVIEW――坂本美雨 『miusic ~The best of 1997-2012~』
坂本美雨の成長の記
坂本美雨にとって、15年のキャリアで初となるベスト・アルバム『miusic ~The best of 1997-2012~』がリリースされた。同名映画の主題歌となった“鉄道員”をはじめ、キャリア前期の代表曲が並ぶDisc-1では、透明感と脆さを併せ持つ歌声に磨きをかけながら自身の音楽に携わる領域を広げていく彼女の姿がある。でもこのへんの楽曲がやけに懐かしく感じられるのは、〈PHANTOM girl〉として覚醒した坂本を知っているから。シャンハイ・レストレーション・プロジェクトのデイヴ・リアンとタッグを組んだエレクトロ・ポップ系がひしめき合うDisc-2は、持ち味の透明感に積極的にカラフルさをプラスしていった過程が記録されており、キャラがクルッとひっくり返って、〈陽〉の部分が表向きになったような印象がある。でもこの転換ぶりがやたらとおもしろい。
弾けるようなエレクトロニック・ポップ・チューン“Phantom Girl’s First Love”などでは、瑞々しさと安定感のバランスが絶妙な歌声が楽しめる。敬愛する小室哲哉が彼女のために書き下ろした“True Voice”を愛おしそうに歌う眩しさといったら。ところで小室の曲といえば、坂本がライヴでよく取り上げている91年発表のバラード“永遠と名づけてデイドリーム”のカヴァーも収められている。このほかにも新録曲は、ニュー・ヴォーカル・ヴァージョンとなる“The Never Ending Story”、そして〈坂本龍一 featuring Sister M〉名義でリリースしたデビュー曲“The Other Side of Love”の〈afteryears ver.〉があって、どちらも本作の目玉と言えよう。ニュートラルなヴォーカル表現を身に付けて、いまや鮮やかな色彩感を誇るポップソング・クリエイターとなった坂本美雨の成長の記。やたらとおもしろい。
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