0.8秒と衝撃。 『NEW GERMAN WAVE4』
[ interview ]
同期と生演奏、マシンと人間のジャミングを推進した3作目『【電子音楽の守護神】』を今年2月に発表したばかりの0.8秒と衝撃。より、早くも4枚目のアルバム『NEW GERMAN WEVE4』が到着した。その表題通り、石野卓球の『BERLIN TRAX』を起点にミニマルなジャーマン・ニューウェイヴ作品を彼らなりに掘り下げた本作だが、毎回自身の音楽論を語りまくる塔山忠臣(唄とソングライター)の様子がどうやらこれまでと異なる。インプットが増えても変わらないこのユニットの美点、そして〈語らないこと〉から感じ取ることのできる、この新作に向けたふたりの思い。あれほど口数の多い男がなぜ今回は語りたがらないのか――その謎が明かされるまでのドキュメントがここに。
シーケンスと俺
――毎回、新作を制作する前はひたすら音楽を聴いている期間がありますが、今回のアルバムのきっかけになった作品はありますか?
塔山忠臣(唄とソングライター)「今回は(石野)卓球さんの『BERLIN TRAX』(98年)ですね。それを、前回の作品(2013年2月の『【電子音楽の守護神】』)が出たときのインストアでタワーレコードの渋谷店に行ったときに、スタッフの子に買ってきてもらったんですよ。だから、あのインストアの日から次が始まってた感じですね。で、を聴きはじめたら、これもまた不思議な話なんですけど、それを卓球さんが作ってた当時のインタヴューが載ってる雑誌を拾ったんです。僕、結構物を拾うんですけど」
――毎回何かを拾った話は出てくる気がしますね。
塔山「あの~、2013年の東京という街におって、97年の雑誌を拾います?」
――拾いません。97年の雑誌を、というよりも物を拾うことがまずありません。
塔山「そうでしょ? だから、それを拾う俺のタイミングがね、〈これで行け〉ってことなんだろうなと思って。あとね、〈いま『BERLIN TRAX』を聴いてます〉みたいなことをTwitterで書いたら、俺たちもときどきやってもらってるサカナクションのPAのサニーさんって人がおるんですけど、そのサニーさんがすぐに反応してきて、〈それ、確かにめっちゃ良いアルバム。俺もたまたま昨日聴きたくなってレコード棚から出したところなんだよね〉って。俺の信頼してるPAさんが言うぐらいだから良いんだろうなと思って、インタヴューを読みつつじっくり聴いてみたら、すごく良くて。俺は卓球さんのソロのなかでいちばん好きなんですよね。第1弾(95年作『DOVE LOVES DUB』)はちょっとアンビエントな感じとダンスっぽい感じが混ざってるんですけど、第2弾はドイツのクラブ・ミュージックに焦点を当てていて、バッキバキなんですよ。イギリスとかアメリカみたいな、いい意味でポップな感じもなく、ディープなんですよね。それがすごく格好良かったんで、こういう感じのドラムにしたいなと思って、どういう機材を使ってるのかいろいろ調べ出したんです。卓球さんもそうですし、卓球さんが当時聴いてたノイエ・ドイチェ・ヴェレのバンドにリエゾン・ダンジェルーズっていうのがいるんですけど、そういうのを聴いて『BERLIN TRAX』みたいなのを作りたくなった、ってことが書かれてたんで、リエゾン・ダンジェルーズって俺、知らんなと思って、買おうと思ったわけですよ。そしたら、俺が21世紀でいちばん偉大だと思ってるタワーレコードさんにもなくて」
――すいません(苦笑)。10年ぐらい前にリイシューされてますけど、それも廃盤でしょうね。
塔山「再発して、秒速で売れないっていうことで廃盤になるパターンのやつだと思うんですよ。で、それをYouTubeとかで聴こうと思っても、1曲とかしか上がってないんですよね。それで〈アルバムで聴きたいなあ〉みたいな愚痴をTwitterで書いたら、〈持ってますよ〉みたいな人がおって。次の週明けには届いてたんですけど、おまけもつけてくれてて。その時代の5~6人組で、ちょっとダダイズムみたいなのが入ってる、現代音楽チックなんですけど……なんだっけな?」
――ボディー・ミュージックの人?
塔山「そういう感じもあるんですけど、もうちょっと民族音楽っぽいんですよね。でも絶対そっち系なんですよ。初期のジザメリみたいな髪型してて格好良くて……その人が送ってきたやつは、日本の鳥居の前で撮ったみたいな写真があって……」
――パレ・シャンブルグだ。去年初作(81年作『Palais Schaumburg』)が再発された。
塔山「そうだ、なんだったらそっちのほうが格好良いぐらいで。でも、リエゾン・ダンジェルーズもやっぱ良くて。そこから、なんかキャッチーじゃなくてもいいんじゃないかと思って。彼らも全然キャッチーじゃないんですよ。でも格好良いんですよね。おんなじことの繰り返しで、こんなん5分もやられても……2分ぐらいで切ってくれよ、っていうぐらいの繰り返しなんですけど、でも、その5分に意味があるんですよね」
――ループ・ミュージックはそういうものですよね。
塔山「こういう感じをやりたいな~と思って、作り出したんです。それでどういう機材を使ってたか調べ出したりしてたときに、ライヴで使おうとしてたサンプラーが一個余ったんですよね。これ、使わないなと思って。それで売りに行ったら、そこのお店でシーケンサーを売ってたんですよね。俺、ドラムマシーンは使ってたんですけど、シーケンサーは使ったことがなくて。シーケンサーって自分で打ち込めば、ベースから、シンセサイザーから何でも自動演奏できるでしょ? サンプリングもできるし。それでちょっと、買ってみようかなって。で、持って帰って、説明書見つつ触ってたら楽しくなってった感じなんです。俺、演奏するの大っ嫌いなんですけど、パソコンで、マウス・クリックでやるのも嫌だったんですよ。そこがシーケンサーは、自分で打ち込むっていうフィジカルな要素も残ってるし、無駄にデカいのも良くて。メカ感、合体ロボを移動させてる感じが良いじゃないですか。それをいじってるうちに、これでアルバム一枚、いききりたいなと思って作り出したんですよね」
――シーケンサーで。
塔山「そうですね。シーケンサーって、これは音色が揃ってるけど音が細いとか、これは音色が少ないけど音が太いとか、いろいろ種類があっておもしろいんですよ。昔のやつって、この音色は使えるけど他はクソやな、みたいな機種ばっかりで。だから、このパターンがきたときはこれを使おう、これがきたときはこいつだ、みたいな感じで、3~4台使って作った感じですね。いままではドラムマシン1台でリズムの面はけっこう補ってたんですけど、それは一切止めて。ベースもシーケンス、シンセサイザーもシーケンス、ギターもいけるやつはシーケンス、みたいな。安っぽいギターの音も、組み方によってはすごいおもしろいんですよ。それも結構使いましたね。だから今回は、〈シーケンスと俺〉っていうところから始まってます」
ヨレのあるタイム感
――音的には、ドラムマシーンの改造から始まった『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』(2011年)のときもDAFの話をしていたり、ジャーマン・ニューウェイヴにかかるところはあったでしょう?
塔山「そうですね。ミュート・レコードが好きでしたからね」
――今回は、そのときとは違う刺激があったということですよね?
塔山「そうですね。〈東洋のテクノ〉のときはギターを弾いて帳尻合わせたい、みたいなところはあったんです。〈やっぱり最後はギターだな〉みたいな。それが今回は、〈やっぱり最後はシーケンスだな〉っていう感じでしたよね。ただ、生の躍動感も入れたかったから、今回も要所要所では生のギターとベースも弾いてて、その使い分けが楽しかったです。選択肢が増えた感じですね。いままでだと〈俺のスキル的に弾ききれるかな〉って躊躇してたようなフレーズも、シーケンスだと入れ込めますから。で、そのシーケンスも、数値みたいなのをパズルみたいに入れていくパターンと、リアルタイムでクリックに合わせて弾いて入れていくパターンとあるんですけど、リアルタイムでやると、ヨレが出てくるわけなんですよ。そのヨレのあるタイム感も、生っぽさに繋がったというか。シーケンスにするにしても、縦のパキッとしたリズムよりも、横のグルーヴに注力したかったんですよね。間違えて弾いても、別に悪くないなっていうところは残したりしてるから、ロック・バンドがギター、ベース、ドラムで録るような要素も入ってるっていうか」
――確かにマシーナリーでありながら、生々しさもありますね。それで、ちょっと話を戻すと、卓球さんのアルバムを聴いたときに感じた格好良さは、具体的にどういう部分だったんですか?
塔山「その……卓球さんもインタヴューのなかで言ってたんですけど、例えば電気グルーヴだと、ある程度のファンの層のことも考えて動き出さなければならないと。あと、このソロの題材にドイツを選んだ頃っていうのは、『A』(電気グルーヴの97年作)がめちゃめちゃ売れてるときで、ソロは出さなくてもいいんじゃないか?っていう時期だったらしいんですけど、それでも出すっていうのは単純に自分の好きな音をやりたいわけで。その商業ベースに寄ってない自由な感じが、音にも出てるんですよね。暗いっていうんじゃないですけど、ドイツって唯我独尊な、独特の感じがあるじゃないですか。それを前面に出してやってるんですよね。しかも、すっごいボロいスタジオだから、どれだけデッドのノイズを取っても、スピーカーからドイツの国営放送のラジオが絶対流れてくるらしいんですよ。もうしゃあない、それもドイツの音だってことで、最後の曲はそれが全部入ってるんですね(笑)。そういう感覚でやってるのが格好良いなあと思って。自分のなかにある〈感覚的な格好良さ〉を腐らせたくないと、単純に研究心でスタッフを連れてわざわざドイツに行って、アルバム一枚作ったところをリスペクトしたんですよね」
――音のほうは?
塔山「音もですね。例えば、ある程度の拍子いったら変化つけて驚かしたらな、みたいなキャッチーさもなく、変化もないままやりきるじゃないですか。音色もそうなんですけど、媚びてない感じが格好良かったんですよね」
――そして塔山さんも、今回はそういう感覚で制作していったと。
塔山「シーケンスで組んだ曲をこの人(J.M.、唄とモデル)に聴かせて罵倒され、みたいなのを繰り返して磨き上げていった感じです。J.M.さんは刀鍛冶みたいなもんですよ。叩けば叩くほど、刀の切れ味が良くなっていくわけですよね。で、途中でちょっとでも曲がったら〈次の鉄を持ってこい!〉みたいな感じで捨てられて(笑)」
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