インタビュー

INTERVIEW(4)――すべてが過程



すべてが過程



0.8秒と衝撃。



――なんだか、お話を聞いてると“UkuLeLe HiBisQs”に対する愛情がひしひしと感じられます。

J.M.「ね。なんでこんなに言葉が出てくるんだろうと、自分でも思います」

塔山「あと、あれちゃんと言っとかんとあかんよ。彼女のやった曲、3回マスタリングやり直してますからね」

――制作費がエラいことになったという話は聞いてますが、この曲なんですね。

塔山「マスターのプレスを3回作ったんですよ? そんなんめっちゃ金かかりますからね。挙句の果てには、ミックスもエンジニアさんをふたり替えてやったんですけど、言ったら替えた人もめっちゃ有名な人ですからね。ホントに、もうちょっとでactwise(所属レーベル)がマイブラとかハッピー・マンデーズ期のファクトリー、クリエイションになりかけたんですよ。マネージャーから、〈うちだとこれは倒産してもおかしくない額だ〉みたいなメールがくるわけですよ。それぐらいの状態でしたからね。それはぜひ書いてもらいたい」

J.M.「狂信的でしたね。作ってるときは食欲もなくなって……」

塔山「レコーディングが終わってから食欲なくなったの純さん(マネージャー)ですよね?」

マネージャー「うん」

塔山「でもそれによって、作る大変さっていうのはわかったと思うんですよ」

J.M.「そう。土足で踏みにじられるってこんな気持ちなんだ、って。塔山さんはこんな気持ちでやってたんだと思って。泣けてくるんですよ、自分の子供がこんな形で……って。改めて寄り添うきっかけにはなったと思うんですよね、作り手の人に」

塔山「で、マスタリングを3回やったのに、最終的に収録してるのはマスタリングなしですからね」

J.M.「マスタリングはなしなんですけど、他の曲に合わせて音圧をちょっとだけ上げてるから、そうすると音がまた変わっちゃってて……また狂信的になっちゃってる(笑)」

塔山「でもやっぱり、してないほうが確かに良かったんですよ。じゃあ最初からするな、って言われるかもしれないけど、でもやってみないとわからないっていうのもあるんですよね。それで今回はわかったことは、やればいいもんでもないんだなって」

J.M.「そう。それがね、目から鱗だったね」

塔山「マスタリングは音圧を上げるために必要だけど、音の質感も変わるんです。そこが今回は特に音数が少なくてフォーキーな感じだったから、余計わかったんですよね。で、彼女の曲のイメージは、退廃美もあるポップさだったんですけど、マスタリングしてもらった人もJ-Popの第一線の人ですから、どうしても答えが出やすいような方向に……歌のほうに寄せようとするんですよね。そうすると変に綺麗にされすぎて、いや、違うんだな……って納得がいかなくて、結局、もともと自分の頭の中にあるほうに寄せたんですよね。マスタリングしないっていうことが、彼女なりのマスタリング的なことで。最後の最後でマスタリングをやめるっていう選択をするとは、俺たちもミックスのエンジニアも思ってなかったんですけど、でも音が……って話を聞くと、言ってることはわかるんですよね。確かに、これやらんほうが……って。で、さっきの一流の人も俺、本物だなって思ったのは、その人がやる前に言ってたんですよ。〈これ、やらなくていいんちゃうか?〉って。そのうえでやってくれてたんですけど、やっぱわかってるんだなと思って。授業料は高くつきましたけど、最後まで諦めずに〈すべては曲のために〉っていうことを最後の曲で実践できたんで、すごくすっきり終われましたよ」

J.M.「〈Mad Drumming〉の曲でも、個人的には別のマスタリングでいきたいのがあったんですよ。でも結局、“UkuLeLe HiBisQs”と同じでアルバム通しての着地を選んでて」

塔山「でもそれは妥協と言うよりも、例えば俺が自分で上げてきたものに対するあなたの意見を聞いて、最初違うなって拒否してた要素でも入れてみたら、俺が思ってたものでもない、この人が思ってたものでもないのが出てくるのといっしょで。それがチームとしてはおもしろいんだろうな、それがバンドなんだろうなと思ってやる部分の感情といっしょですよ。結局、掘り下げたら作った人には絶対あんねん。ここは自分やったらこうしたいんやけど、でもこっちもおもろいなっていうものを出していけばいいと思うんです。だから俺、さっき言ったみたいに作り続けたいんですよ。答えがないから、その都度その都度、状況によって変わってくるし。評価もいろいろあるやろうけど、俺は、自分がちゃんと責任持って出せるものを作り続けたい」

――はい。

塔山「ライヴもいままでは盛り上げて共感してっていうのをやればいいのかなっていう部分もあったけど、それが最近は、ひとつひとつのライヴをアルバムみたいにできるんじゃないかと思ってて。これまでのライヴには、ちょっと生き急いでる感が出すぎてたんですよね。自分たちのファミリー的なライヴのときは、それはそれでいいと思うんです。でも、例えばART-SCHOOLとか、すごい好きな先輩のバンドとか観ると、曲間をどう聴かせるかもやってはるんですよね。音がないところもライヴなんですよ。暗転で、曲と曲の間にひとつだけやってるのは、まったく音を出さないってことで。それがひとつの曲と同じぐらい、説得力と世界観がすごくて。そこにすごい感動して、その感じを入れていきたいなと思ってやり出したら、やっぱりライヴの感想が違ってきたんですよね。前は〈わー楽しい!〉みたいなものばかりだったのが、〈ホントに良かった……〉みたいな感じに。それが作品のほうにも影響してるから、簡単なことを言わないようにはなってきてるんですよね。もっと自分が深いところで悩んで、音楽に昇華していきたいなっていうのがあるんです。だから、前より刺激的な日々だというか、前より楽しいは楽しいんです。いまは思案しながらも、できないことはないんじゃないかなって。例えばその“UkuLeLe HiBisQs”とかも、ホントはサンプラーとかもいるだろうけど、俺はアコースティック・ギター1本とふたりの声で、それを補うだけのことができんちゃうかなって思う」

J.M.「うちはアコースティックから始まってるからね」

塔山「前、デビュー作(2009年作『Zoo&LENNON』)を出したばっかりで、暴れるようなライヴをやりはじめた頃、近しい人が亡くなりはって、そのお別れ会みたいなのでよかったら歌ってくれへんかっていうので、ふたりで行ったことがあるんですよ。俺がアコギ1本持って、じゃあ歌おうかっていうんで、ライヴであんまりやってなかったような曲をやったんです。そうしたら泣いて感動してくれはって、〈ああ、このバンドは良いバンドになるわ〉って言ってくれて、嬉しかったんですよね。音楽的にはカスみたいな状態なんですよ? 生音やし。で、そのとき感じた嬉しさっていうのは、でっかいフェスに出てガーッてなるときと変わらないんですよ。綺麗ごとじゃなくて、本当にそういう快感があったから、いままでみたいに〈これはできひんやろ〉〈無理やで〉っていうんじゃなくて、ちゃんとライヴでもやりたいなと。別に誰のためでもなく、ただやりたいんですよ。今回のアルバムはそういう感覚で作ったから、掘り下げられないんですよね。真面目に自分を振り返りたくない照れ臭さがあるんです。わかりにくいかもしれんけど、それとおんなじなんですよ」

J.M.「塔山さんは先に進んで音楽を作ればいい。何にも考えなくていいと思うんですよね」

塔山「だから……こんなもんかな、って思いながら作るのがいちばん失礼だと思うんですね、買う人にとっては。それを絶対やりたくなくて。たぶん前作、前々作は、知らんまにその要素がちょっとあったと思うんですよ。自分的に、いま振り返ると。やりきってはいるんですけど、今回のアルバムが出来たときの感情とは全然違うから。今回のアルバムを作って思ったのは、全部過程だっていうことなんですよね。だから、〈これが俺らの決定盤だ〉みたいなことも言いたくないし、そういうことではなくて」

J.M.「さっきのマスタリングの話に戻ると、曲単位で聴いたときにいちばんいいマスタリングにしなかったけど、それを次の課題に持ってくことへの喜びみたいなのはあるんです。次はそこもレコーディングからちゃんと意識して……とか、なんか、犬が土のなかに骨を埋めて、取っとくみたいな感覚。今度堀りに行こう、みたいな感じでね」

――はい。

塔山「あとね、俺がひとつすごいなって思うのは、こんな感覚的な話を黙って聞いてくれるカウンセラーみたいな人がおるってことで」

J.M.「こういうこと、たぶん、ここでしかしゃべれない」

――(笑)まあ、マスタリングの話だけでも30分以上お話しいただいて。

塔山「なんか、今回はこういうことを聞いてほしかったです。これで成仏できます。そうじゃなきゃ地縛霊になってますよ、ほんまに。すごいすっきりしました」

――それはよかったです(笑)。では、そろそろ終わりますかね?

塔山「はい(笑)。ありがとうございました」


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掲載: 2013年11月06日 18:00

更新: 2013年11月06日 18:00

インタヴュー・文/土田真弓