INTERVIEW(3)――ドイツの根暗感
ドイツの根暗感
――失礼ながら、これまでは語りすぎるぐらい音楽論を語っていた方が、この変わりようはどうしたことか、と思うんですけども……。
J.M.「そうなんです」
塔山「それが、説得力ないなって感じるんですよね。心境っていうのは自分の宝物のようなところがあるから、言いたくない。あの……もうアホやなって思われてもいいから言わしてもらうと、音源に自信がない部分があったんだと思うんですよ、これまでは。特に『【電子音楽の守護神】』のときはめっちゃ話してたはずやねん。自信なかったはずやねん。わかんねん。口数が多いときっていうのはそうやねん。それはモノが良いとか悪いとかの話とかじゃなくて……あのね、赤井秀和が言ってました。調子良いときの試合は、相手のあごしか見えへんって。相手は怖いからめっちゃ睨んできたり挑発したりしてくるけど、こっちは相手のあごしか見えへんから、〈カン!〉ってゴングが鳴ったらそれ殴って勝つ、みたいな、ただそれだけっていう。そんなこと言ったら身も蓋もないやんっていう話なんですけど、今回はそれぐらい、別に話すことがないんですよ。この作品に関しては楽しんで作り終わってて、さっきも言ったように、この作品を作ったことで次また作りたいっていう気持ちになれてるほど楽しかったわけじゃないですか。それがあるから、感情を巻き戻して細かいところまで落とし込むのがしんどいっていうか……わかりにくい説明ですけど、しんどいんですよ。なんかもう……常に次、次、次、って作り続けていくしかないんかなっていう結論に至ったんです。音楽に100点みたいなものってないじゃないですか。4つ打ちでわかりやすくて、キャッチーなヴォーカルが入ってて、っていうのは、そういうのを好きな人が多いっていうだけであって、それがいちばん格好良い音楽ということでもないじゃないですか。それを考えたら、結局どれが絶対的に格好良いっていうのはないんですよ。だから難しいんですよね。気持ちを戻して、あのときこうだったとか、いままでと比べてどうだとか考えると、もうハチャメチャになってしまう」
J.M.「作ってるときは、人格すら変わっちゃうから。見てると、音といっしょに塔山さんは変わっていってるんですよ。まったく別の人みたいになってって、それぐらいに入り込むからね」
塔山「それがいいとは思わないけど、クサいことも言いたくないんですよ。楽しんだだけだから、苦労したとも思いたくないし、病的に何かを詰め込んだとも思いたくないし。確かにね、根暗な作業ではありましたよ。いままでだと考えてスタジオ行って、スタジオのエンジニアの前で弾くっていう行為がありましたから、比較的フィジカルな部分もあったんですよ。ひとりバンドマン的な。でもいまは家でシーケンスを組んで、スタジオで卓に流し込むっていうやり方なんで、そういう意味ではホント根暗な感じではありましたけど、その根暗感が……俺、ドイツは根暗だと思ってるんで、そこも合ったんですよね。俺、もう友達いらんわ、ってやってる感じが楽しかったんですよ」
J.M.「でも、なんでか私も、ドイツの黒鍵使うような旋律が好きで」
塔山「バロックっぽいやつね」
J.M.「うん。ああいう旋律がすごい好きで。塔山さんにもありますしね、黒鍵の音色が」
塔山「あとでエンジニアと調べてみたりすると、クラシックで使うようなコード進行を使ってたりするんですよ。“Mad Drumming 6”とかもそうですし」
――特に勉強してるわけじゃなく、無意識に?
塔山「たぶん好きなんだと思うんですよ。だから自分の口から出てくるのもそういう感じになる。で、ファンの子でも、〈クラシックしか聴かないんだけどハチゲキの曲は聴けるんだよね〉って毎回買ってくれるやつがおるんですよ。そいつからしたら、バッハか俺らしか聴かないみたいな(笑)、すごい偏ってるんですけど、ちょっと嬉しいんですよ。で、その子が言うには、ハチゲキにはなんかクラシカルな様式美があるんですって、曲によっては」
――そういうところも含め、先ほどの言葉を借りれば根暗的なサウンドと言いますか。
塔山「根暗的なサウンドっていいですね、響きが。胸がスッとします」
――語弊があるとは思いますが、クラウトロックにしろ、ジャーマン・ニューウェイヴものにしろ、現行のテクノにしろ、ドイツ産の音楽にはある種の根暗感が感じられるんですよね。
J.M.「独特の空間がありますよね。密室っぽくて、そこにある、無音の音もなんか……」
塔山「そうですよ。だから卓球さん、ラジオの国営放送入れてたわけですからね」
――シンセの音も、当時の質感で。
塔山「うん、いまの音はやっぱり型があるんですよ。でも俺が言ってるリエゾン・ダンジェルーズとかは、〈こいつら、迷ってるときにたまたまこの機械見つけたんちゃうんか?〉っていう、ロックにしたいんだけどちょっと足らないものを電子機材で埋めた、みたいな音が格好良いんですよね。パソコンとかだと、例えばこういうふうにしたらスクリレックスみたいになるとか、こういうふうにしたらこういう格好良さが出るとか、3割3分3厘ぐらい打てるぐらいの、ある程度の音は出せるんですよ。でもノイエ・ドイチェ・ヴェレの人らは、俺がシーケンサーをリアルタイムで打ち込むのといっしょで、本来の機材の使い方じゃないんですよ。本来はもっと綺麗に録ってるはずなんけど、そうじゃない感じが格好良いんですよね」
――ある種の不完全さみたいな。
塔山「うん。それがさっきのナイン・インチ・ネイルズのインタヴューに繋がるんですよ。そこがすごい格好良いなと思うんですよね」
――それも、私の思う0.8秒と衝撃。感なんですよ。
塔山「うん、うん、わかります。それはホントわかりますよ。うちはホントそうですよ。だから、〈これ、ジャンルなんやろ?〉っていうふうになるんですよね。いろんな要素が入ってたとしても、どこにも寄ってない」
――なので、例えば塔山さんのソロだったらホントにかっちりした作品になるのかもしれないけれども、このユニットとしての音を出そうとすると、ちょっと音が荒れるというかね。
J.M.「やすりをかけたような感じはしますよね」
――そうそう。今回のアルバムは、J.M.さんのアレンジ曲があるということを置いておいても、ふたりで作ってる感がすごくあったんですよね。塔山さんは恐らく実験するのがお好きな方だと思うので、夢中で実験しているうちに出来たアルバムという側面もありつつ、相棒としてのJ.M.さんは、その根暗な方と……。
J.M.「根暗な方……(笑)」
塔山「丁寧な侮辱(笑)」
――外……ポピュラリティーと言ってもいいかもしれませんが、外部との架け橋になっているんだなと。
J.M.「そうだと思いますよ。だって、塔山さんにはずっと音楽を作っててほしいですから」
塔山「俺は、人をどんどん遮断してっちゃいますからね」
――初めてお会いした〈東洋のテクノ〉の頃は、お二人のキャラクターを逆だと思ってたんですけどね。
J.M.「そのときとまた人格が変わってるんですよ。私もいまひとつ(バンド活動に対して)他人事だったし」
――ああ、そうでしたね。
J.M.「(爆笑)同意された!」
塔山「そのほうが根暗より問題でしょう」
J.M.「そうだった(笑)。ぶっちゃけ他人事で、レコーディングでも寝てましたしね。だから違う方向に人が変わってったんですね」
音楽ができない人なりの強み
――J.M.さんは、今回初めてアレンジを手掛けてますね。アシッド・フォーク的な“UkuLeLe HiBisQs”。
J.M.「アレンジをやろうと思った動機としては、前回の制作のときは単純に時間がなくて、塔山さんが可愛そうだったんですよ。もっと作り込みたいのに時間がないっていうのがあったから、その時間を作りたいと思ったんですよ。塔山さんは、〈Mad Drumming〉にちゃんと集中させたいと思って」
――前作のインタヴューのときに、バンドに対する意識の変化を見せてましたけど、J.M.さんがトラック制作にも関わってくるとは予想外でした。
J.M.「意識は変わってても、形にできなかったんです。今年のはじめからは、制作も、ライヴも、フロントふたりのメンタリティーも、いろんなところをちょっとずつ変えてかなきゃいけないんだなと思ってて。それで、4月にあった赤坂BLITZはでのワンマンはそう思いはじめてからの期間が短くて思う通りにできなかったっていうので、たぶん私は、そのときの自分の尻拭いを“UkuLeLe HiBisQs”やったような気がします。BLITZと、その前の大阪と名古屋のCLUB QUATTROに来てくれた人との関係性って、すごく濃密だと思ったんです。でも、その人たちの前で自分の力を出し切れなかったから……この曲は、個人的には、その3会場に来てくれた人のために作った感覚があって。あとはもう、周りの近しい人のために作ったっていうか。バンドの状況を見て、目の前のハードルを越えていくっていうBLITZまでの状況が、今回自分が新しいこと――制作にチャレンジすることで、やっと終わったっていう感じです。自分のなかでは」
――これは詞もJ.M.さん?
J.M.「私が歌ってるところは私で。メロディーも、塔山さんが歌ってるところは塔山さんが、私が歌ってるところは私が作ってて」
――音の質感などのディレクションもJ.M.さんで。
J.M.「まあ、そうですね。アコギは弾けないんで、弾いてもらって」
塔山「元のコード進行は俺が作ってるんですけど、デモで当てこんでたものは超キャッチーですからね。で、それに〈コーラスを作ってきた〉って持ってきたのが、コーラスじゃなくてもう、譜割りが俺といっしょすぎて、邪魔してるんですよ。これメインやん、って」
J.M.「私、塔山さんを助けようと思ってアレンジ考えたら歌作っちゃったと思って、じゃあ、どうせなら歌詞もつけて塔山さんの許可を得ようと思って、で、恐る恐る携帯で録って送ったんです」
塔山「最後のサビとか、普通やったらモロにメイン同士がぶつかってるようなやつは絶対やらないですけど、今回はまあいいんちゃうかなと。この、モリッシー(J.M.)に任せようかなと。素人のおもしろさみたいなのがあるから」
――そういえば、ユニットのキャッチコピーは〈21世紀のモリッシー&マー〉でした。
J.M.「ただ、私が思ってることを理解してもらうのはすごく難しかったかったですね。場面場面でいろんな人の人生があって、最後に全部が繋がるみたいな、そういう短編小説みたいなのを音でやりたくて。あと、普段は同期があるからリズムは一定の曲が多かったんですけども、この曲はフリーで、クリックなしでやってもらいたいって言って、塔山さんにアコギと歌を録ってもらって、そこにシンセとかをつけた感じで。塔山さんがやってる方法と、違うことをやりたかったんですよ。私はこっちに行くから、あんたはそっちに行って、あとで合流しよう、みたいな(笑)感じでやりたくて。あと……塔山さんに勝ちたいとは思いましたね。私なりの、音楽ができない人なりの強みで勝ちたいっていうのはありましたよ」
――それで出来上がった曲は、儚い美しさがあるフォーク・ソングで。
J.M.「私、どうしてもこういう陰鬱なメロディーになってしまうんだと思いましたね。作ってるときはもうちょっと明るい曲にしようと思ったけど、やっぱり人生をイメージしてるから、明るくはならないですよね。そこに自分の喜怒哀楽とかも入れたいなと思って……〈怒〉はないか。怒りはたぶん、塔山さんのほうの曲に私は入れてるから」
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