INTERVIEW(2)―― 不完全な人間味
不完全な人間味
――これまでは、J.M.さんは歌入れの直前に初めて曲を聴くということが多かったと思うんですけど、そうすると、今回は割と早い段階で聴いてたんですかね?
J.M.「曲によってですね。前回の『【電子音楽の守護神】』はホントにスケジュールが厳しいなかで生まれた音で、曲としてはやりきったって、自分で自信を持ってはいるんですけど、バンドとしての音楽を探求するにはもうちょっと時間が欲しかったっていうのがあって、今回はその時間を作りたかったんですよね。だから口うるさく言って、早目に何曲か聴かせてもらって。骨組みが出来てからの〈ここにこういう質感が欲しいよね〉っていうのも、小姑みたいでうるさいだろうけど横から言って、みたいな(笑)。具体的な意見っていうのではないんですけど」
塔山「聴かせたときの彼女の直感的な感想はある意味いちばん大事なんで、〈ここはこうだからこっちは4つ打ちにして〉とかそういうテクスチャー的な意見よりも、パッと聴いて、〈ここはこう感じるから、もっとこういう感じになってほしいな〉っていう感情的なものをもらう感じですね」
――そして、ここでようやく私の感想なんですけども、やっぱり塔山さんの作る音はすぐにわかるなあと。特に〈東洋のテクノ〉以降は〈0.8秒と衝撃。の音〉っていうものが揺るぎなくあって。
J.M.「やっぱりあるんだ」
――今回は機材も一新されてますし、鳴ってる音は確かにこれまでと違う。けれども、例えばビート・オリエンテッドなメロディーやフレージング、音そのものから感じられる沸々としたエネルギー、あるいは攻撃的なサウンドから滲み出る翳りのようなもの……それは〈東洋のテクノ〉のときに塔山さんがおっしゃってた〈斜陽感〉にも、先ほどの発言にあった〈暗いっていうんじゃないけど、独特の感じ〉にも通じるものなんじゃないかなと思うんです。そういう美点は、音の方向性を変えても揺るぎないものとしてあるんだな、と。
J.M.「うん。私は……ですけど、毎回方向性を完全に変えるっていうんではなくて、いままでに良しとされてるところを踏まえて先に進みたいっていうのはありますね」
塔山「俺は、変えたい、変えたくないというところではなくて、特に前のことは考えないというか、ここスタートでやりましたけどね。ほんまにフラットな状態で」
J.M.「だから、今回はけっこうのびのびとできたよね?」
塔山「うん。だからアルバムを作るのが楽しくなりましたもんね。今回のアルバムは、〈まだ、これからも作り続けたいな〉って思わせてくれた。前回のときは、もうやめようかなって思ったぐらいで」
J.M.「楽しさっていうよりは苦しさに変わっちゃってたんで」
塔山「前回、前々回(2012年の『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』)ぐらいはそれがあったんだけど」
J.M.「音楽にちゃんと向き合いたいのに、そうできる環境じゃなかったっていうのもありましたから」
――マネージャーの方が亡くなったり、他にも慌ただしい時期ではありましたね。
塔山「わかりやすく言ったら、このアルバムの前にドラマ(4月に放送された『ST 警視庁科学特捜班』)のテーマ曲を作ったんですけど、あれを頼まれて作ったときよりも、今回のアルバムを作り終わってからヴィジュアル系のバンドの子に頼まれた曲(SuGの武瑠のソロ・プロジェクト、浮気者の『I狂U』に収録の“愛の妙理”)のほうが、作るのが全然おもしろくて、すぐ出来たんですよね。ドラマの曲までの(制作)過程はあんまり好きじゃなかったんですけど、今回を経てからはまたおもしろくなってきた感はあるんですよね、自分のなかで。そこは大きい変化ですね」
J.M.「夢中になって打ってました、シーケンサーを(笑)」
塔山「ちょっとね、めっちゃできる事務員みたいな感じですよ。打ち込みやから、演奏がビヨーン!とかジャーン!っていう感じじゃなく、カタカタカタカタ……ってね(笑)」
――ブラインド・タッチ的な(笑)。
塔山「それで再生してみて……っていう感じですよ。YouTubeに打ち込みやってる人の映像が上がってたりするんですけど、はたから見たら俺、こんな気持ち悪いんだ、って(笑)。でもね、画で見るよりも打ち込みの作業ってけっこう有機的なんですよね。演奏なんですよ、やっぱり。打ち込んでるときも、リアルタイムでクリックに合わせてやってるから、ちっちゃいレコーディングなんですよ、その時点で。フレーズを作ってるだけだから、感覚としては鍵盤弾いてるのとあんまり変わらない。あと今回はウワモノを打ち込めたんで、いままでにないような重ね方もできたのが大きかったですね。これまでは全部手弾きでやってましたから」
J.M.「たぶん、制作のスタイルに合ってるんですよね」
塔山「全部を把握、管理できますからね。でもあんまりそっちを押しちゃうと音がペラペラになっていくんで、それを抑制するために生のギターとかベースを入れたり。トレント・レズナーが言ってたことでやっぱりわかってるなーって思ったのは、パキッとしたトラックに対して、人間の声をライヴっぽく入れるから格好良いんだと。で、けっこうJ.M.さんとかはその感覚を持ち込んでくるんですよね。歌も、けっこうルーズやなって思うようなところも〈これでいいんだよ〉って言われて残すと、馴染みとしては良かったりするんですよ」
J.M.「結構ね、几帳面なんですよ、塔山さんは。でもそのままでいくと曲が淡々と過ぎ去っちゃって、引っ掛かりがなくなっちゃうから」
――前回のインタヴューのときも、ヴォーカルはふたり合わせて100点でいいんだ、っておっしゃってましたね。
塔山「トレント・レズナーも、そこは絶対に気を付けてるんですって。ヴォーカルは生でラウドで、少々の粗も関係なく入れて、その代わりトラックはカッチカチに作るねんって。で、彼は、ギターっていうのをすごい不完全な楽器だと思ってるんですって。言ったらチューニングも狂うし、その狂うたもんも別に弾けるわけじゃないですか。そういう不完全なギターがラウドに入って、で、不安定な人間の声っていう、言ったら良くなる可能性もデカイけど、あかんくなる可能性もデカイわけじゃないですか。それを入れることによってナイン・インチ・ネイルズの音みたいになるんだっていうことを言ってて、俺は格好良いこと言うな~と思って。J.M.さんはその感覚を俺に入れてくるんです」
J.M.「だから、歌も私好みのやつを選ぶとね、ちょっとピッチが甘いんですよ。でも人間味があるやつを入れたくて」
塔山「たぶんそこが、俺たちのファンの子がライヴで暴れたくなるようなロック感に繋がってるとは思うんですね。そこがなくなったら、縦(のリズム)が揃った打ち込みになっちゃうんで。そういうことをやってる人なんぼでもいますからね。俺らのキーワードとして〈パンク〉っていうのが出てくるのはそういう理由だと思うんですよね」
引き籠った感性
――そうした人間味、エモーションにも重きを置きつつ、今回は曲名が9曲中7曲が〈Mad Drumming 1~7〉というナンバリングで。それはどういう意図があって?
塔山「前回のをリリースしてタワーの新宿店でインストアをやったときに先輩の人が遊びにきてて、帰りにその人とCDを買いに行ったんですよ。ニューエイジとか現代音楽のコーナーにいっしょに行って、その人が好きな現代音楽家のアルバムをいっしょに見てたんですけども、それの題名が全部いっしょだったんですよ。アルバムのタイトルが一個あったら、それに追随してそれの〈Part I〉〈Part II〉〈Part III〉〈Part IV〉みたいなアルバムが結構あって、この感覚ってすごい紳士的だなと思ったんですよね。スティーヴ・ライヒとか、曲名をちゃんと考えた結果、一周して〈Part I〉〈Part II〉〈Part III〉〈Part IV〉ってつけてるんだろうなっていうのがわかったんで、こういう感覚でやりたいと思って。だらこそ、一個ずつ真剣に曲を書いといて、題名は統一感があるナンバリングにしようと思ったんです。それまでは比較的にタイトルはガラッと分けてたんですけど、曲名を統一することによって表現できることがあるんちゃうかなって。別にふざけてるわけでもないし、ふざけてないわけでもないぐらいの感覚で、俺にしては紳士的なんです」
――作り手のメンタリティーを押し付けないということですかね。
塔山「俺が言えるのは、ここで〈紳士的〉っていうのを見てわからないんだったら、もっと本を読めって言いたい。逆にそのへんの感覚がわからんのやったら、このアルバムは聴いてもわからんのちゃうかなっていう感じがあるんですよね。なんか俺……今回のアルバムに関するインタヴューはどれもそうなんですけど、話すつもりがないんですよ。なんか、口に出して言ったら変だって言われるようなものなんだけど、実は大事な感覚ってあるじゃないですか。それに対して、みんなは簡単に答えとして〈変態〉だとか〈アンダーグラウンド〉だとか〈マイナー〉だとか〈サブカル〉だとか言うけど、それだけで片付けられるにはもったいない感情ってあるじゃないですか。その部分をいちいち人に説明してわかってもらいたいと思わないというか、わかる人はわかるし、説明するようなものでもないんですよね。だから説明しづらいんですよ、このアルバムは。曲名のナンバリングも、別に意味がないわけではないんですけど、でもその感覚を説明しづらくて……俺は。曲も、ひとつひとつ掘り下げたくないんですよね。別にひねくれてるわけじゃなくて。〈この曲が好き〉っていうのもいい意味でないし、でも、自分的にはすごく好きなアルバムですし。なんか、いままでと違う……逆に言うと、いままでと違う感覚ってそこなのかな。いままではもっと細かいとこまで聴いてほしいと思ってたんですけど、なんかその、違うんですよね……ある意味、感性としては引き籠ってる状態だと思うんですよ、いまの俺は。そもそも〈もうええわ〉〈好きなのをやりたい〉っていうので始まってて、〈俺しか良いと思わなくてもいい〉ぐらいの感覚でやりましたから、それを人前で分析されると照れ臭いというか……引き籠りでやった作業は引き籠りで終わってていいんですよ、俺的にはね」
- 前の記事: 0.8秒と衝撃。 『NEW GERMAN WAVE4』
- 次の記事: INTERVIEW(3)――ドイツの根暗感