INTERVIEW(3)――10年は聴けるアルバムであってほしい
10年は聴けるアルバムであってほしい
――アルバム・タイトルも曲タイトルも日本語で統一されていますし、改めて日本語詞と向き合った作品とも言えそうですね。
大久保「歌詞は今回自分のなかではいちばん大きく変わってて、空想で歌詞を書き出したんです。前のアルバムを出す直前に地震があって、しばらく歌詞を書いてない時期があったんですけど、それから空想で書くようになって、だから『イメージと出来事』っていうタイトルになったんですけど。これまでは〈孤独だから孤独な曲を書く〉みたいに、実体験に基づいてたんですけど、自分に起こったことも俯瞰して、単なる出来事として捉えて書くみたいな、そういうニュアンスが今回いちばん変わったと思います。歌詞を書いてなかった時期は、とにかく本を読んだり映画を観たりしてたんで、そこから書いた曲もあったり、一曲一曲に映像があるんですよね」
――改めてお伺いすると、大久保さんの歌詞の基本的な影響源になってるのって、どういった方なのでしょう?
大久保「小説とか詩集の影響が大きくて、谷川俊太郎さんとかですね。あとはコピーライターも好きで、“コピーのように”は土屋耕一さんの資生堂のコピーをまるっと引用してるんですけど(笑)。それこそ、土屋さんのコピーが大瀧さんの曲のタイトルになってたり(81年の“A面で恋をして”)、80年代はそういう人が作詞家も兼ねてることもあったから、そのニュアンスも自然と出てると思いますね」
――アルバム全体に切なさが通底してるのもアナらしいところで、今作に関しては、〈時間が過ぎていくこと、忘れて行ってしまうこと〉っていうのが大きなテーマになっていますよね。これは30歳を過ぎたことであったり、NOMAさんの脱退っていうのも関連しているのだと思いますが。
大久保「すごく悲しいと思ってたことでも、少し経つと案外忘れちゃってたりして、それって悲しくもあるんだけど、客観視してみると、ちょっとおもしろかったりもして。ウディ・アレンの映画とか、悲しい恋愛ストーリーなんですけど、ちょっと滑稽な作品だったりして、ああいう感じができればなって。あと思うのが、日本のソウルってちょっと悲しいっていうか、80年代のシティー・ポップとかは〈都会への憧れ〉みたいな明るいものもあるけど、例えば荒井由実の曲はちょっと暗かったり。根本的な日本のソウルって、そっちのような気がして」
――アナの場合はニューミュージック寄りって言ってもいいかもしれないですね。
大久保「例えば、〈サンセット〉って言うと、〈サンセット・ビーチ〉とか〈サンセット・クルージング〉とか、ちょっと〈陽〉じゃないですか? 〈女口説くぞ〉みたいな(笑)。でも、〈夕暮れ〉とか〈黄昏〉とか、日本語にすると枯れた方向に行きますよね。花が散るのを美しいと思ったり、そういうところを大事にするのが日本らしさかなっていうのはずっと思ってて。だから、僕の詞は〈暗いものが多い〉とかよく言われるんですけど、それはむしろ誇りというか、美学としてあったりしますね」
――大内さんは30歳を過ぎて、時間の流れみたいなものをどう感じていますか?
大内「僕と大久保は中学からずっといっしょで、今度の4月で出会ってから20周年なんですよ(笑)。それで最近空斗くんに言われたのが、〈大内くんと大久保くんみたいな人見知りの人と、やっと打ち解けられた気がする〉ってことで(笑)。空斗くんとはもう3年ぐらいいっしょにやってるんですけど……自分が人見知りだって思ったことある?」
大久保「俺はずっと思いようけど(笑)」
大内「そうなん!? 俺1回も思ったことなくて、でも、最初に言ったようにあんまり周りに友達がいなかったりするのって、そういうことなんかなって思ったりして。普通これだけやってると戦友的なバンドがいたりするけど、そんな人いないし、〈飄々としてる〉とか言われるんですけど、ただ単に周りに人がいないだけっていう(笑)。30歳超えて、そういう自分も多少俯瞰して見れるようになってきたっていうのはありますね」
大久保「あんまり無理はしなくなりました。福岡から東京に来てすぐの頃は、いろんなバンドと繋がりたいとかも考えたけど、いまは自分たちの音楽に対して、〈これに関しては負けない〉とか、逆に〈ここはもういいや〉っていうのがわかってきて、〈やれることをしっかりやろう〉って感じになってきましたね。数は少なくても、近しい仲間にすごいミュージシャンがいるんで、その人たちと良いものが作っていければなって」
大内「だから、今回〈戻った〉っていう感覚だよね」
――〈2人に戻った〉っていう感覚は、作品のベースになってると思うんですよね。1曲目の“永遠だったかもしれない”には台詞が入っていて、それこそ映画のワンシーンのような感じですけど、これって大久保さんと大内さんが話してるみたいな印象を受けるんですよ。
大内「おっさん2人がこれ話してたら気持ち悪いですよ(笑)」
――中学生の頃の2人っていうイメージです(笑)。
大久保「いままでの1曲目って、前作だと銅鑼がジャーンって鳴ったり、その前はサイレンが鳴ったり、〈アナ始まりますよ〉みたいな感じで、頭にインパクトを持ってきてたんですね。でも、今回は長く聴いてほしいと思って、曲がスッと入ってくるような感じにしたかったから、弾き語りで始まってるんです。その後も、ドーンと爆発するよりは、朝になって、夜が来て、季節が過ぎていくっていう、そういう流れを大事にしてて」
――その感じはよくわかります。いまって何でもサイクルが速いから、音楽の流行りもすぐに入れ替わっていくけど、そういう時代だからこそ、じっくり腰を据えて何度も聴けるアルバムが聴きたい欲求があって、今回の作品はそれに応えてくれるなって思いました。
大久保「若い人の……とか言うとおっさん臭いけど(笑)、最近よく名前を聞くバンドをチェックしてみると、すごいテンポが速かったり、基本4つ打ちが多くて、歌詞とかもとにかく変っていうか、バズってなんぼみたいな感じがあるじゃないですか? そういうのもおもしろいとは思うけど、〈10年後も聴くかな?〉っていうのはあって。僕が今回マーヴィン・ゲイをずっと聴いてたように、このアルバムも少なくとも10年は聴けるアルバムであってほしいなって思いますね」
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