インタビュー

LONG REVIEW――アナ 『イメージと出来事』



開放的なポップ・アルバム



アナ_J



吹っ切れた、そんな言葉が真っ先に浮かぶアルバムだ。エレクトロニックでダンサブルな要素を持ち味とし、2011年の前作『HOLE』ではチルウェイヴともシンクロする音を纏ってみせたアナだが、そうしたアプローチが今回の新作『イメージと出来事』ではほとんど見受けられない(アーバン・エレクトロな秀作“サヨナラの位置”を除いて!)。ここで彼らはオーセンティックなスタイルでポップスと真っ向から対峙。ソングライティング一本で勝負しようという気概がアルバム全編から感じ取れるし、そのヴィジョンを見事に作品として結実させたと言えるだろう。優美なメロディーと豊潤で瑞々しいアンサンブルに支えられた楽曲が詰まっていて、とにかく充実感がある。

ソウルやボサノヴァ、ソフト・ロックといった60~70年代のアーカイヴの滋養をたっぷりと吸収したアナのサウンドは、いわゆる渋谷系の系譜を受け継ぐもの……という話は今作に限ったものではなく、彼らを語る際に何度も言われてきたことだ。この90年代に花開いた、いわば過去の音楽ムーヴメントとどういうスタンスで向き合い、どう更新していくか――穿った見方をすれば、それがアナの歴史とも言えるかもしれない。だが、本作で彼らは渋谷系的なものとの距離間を慎重に推し計るような素振りは見せず、自身の血肉となっているサウンドを懸命に振り回し、めくるめくポップスの魔法を捕まえようと、ひたすら真摯に努めているように感じられた。呪縛から解き放たれた……というのは大げさすぎるかもしれないが、とにかく本作は開放的な感覚に満ち溢れているし、その風通しの良さが大きな魅力だと思う。



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掲載: 2014年01月29日 17:59

更新: 2014年01月29日 17:59

文/澤田大輔