アナ 『HOLE』
[ interview ]
ファンタスティックなシンセ・ポップとサンプリングから派生したバンド・サウンドを融和させることで洒脱なポップ・ミュージックを編み上げる3ピース・バンド、アナが待望のニュー・アルバム『HOLE』を完成させた。
前作から約3年の間に福岡から東京へ活動拠点を移し、さらには京都のSECOND ROYALへとレーベルも移籍。アナのこれまでの持ち味と新しいパートナーの特色――つまりは90年代の渋谷と2011年の海外インディー・シーンとが美しくリンクした本作には、絶妙な時代感を纏った色鮮やかな日本語ポップスが並んでいる。
紆余曲折、試行錯誤を重ねるなかでようやく到達したという今回の新作。〈いろいろあった〉とメンバー3人は語るが――さて、その〈いろいろ〉の中身とは一体?
試行錯誤してた3年間
――本誌のレヴューなどで過去3作はすべてご紹介していたので意外だったんですけど、アナへのインタヴューは今回が初めてで。
大久保潤也(ヴォーカル/ギター/サンプラー)「そうですよ。もう中堅です(笑)。だから、移籍したSOCOND ROYALには〈新人〉って言ってくれ、ってお願いしてて。〈SECOND ROYALから新人デビュー!〉とか。なんか、〈4thアルバム〉って言うと若々しくないじゃないですか(笑)。それで、なかば冗談で〈大型新人〉って勝手に」
――(笑)それにしても、SECOND ROYALへの移籍は驚きました。
大久保「そうですか?」
――はい。近頃のSOCOND ROYALって、海外のインディー・シーンとリアルタイムでリンクするようなバンドを送り出している印象だったんですね。そこで〈アナと同時代性〉ということを考えたときに、今回の『HOLE』に収録されている“SUMMERS”“ランデブー”あたりにはグローファイにも通じるような空気を感じたりするんですけども。
大久保「はい」
――これまでのアナには、いわゆる海外シーンとの共振とか、そういうキーワードはなかったように思うんです。
大久保「そうですね。ホントに3枚目、前作の『FLASH』までとかは、中学/高校のときに聴いてた90年代モノの影響をひたすら引きずってやってる感じでしたね」
大内篤(ギター/コーラス)「簡単に言うと、渋谷系」
大久保「そこの影響が、いちばん大きくて。でも、SECOND ROYALは普通に好きだったから、福岡にいたときもゲストに呼んで、いっしょにイヴェントやったりして接点はあったんですけど……僕もやっぱりSECOND ROYALには海外の……特に英詞っていう印象を持ってたから、所属するとかはまったく考えてなかったんですよね。僕たちはむしろ、絶対に日本語でやろうっていう真反対のコンセプトだったし。ただまあ、なんか、いろいろあって(笑)」
――では、その〈いろいろ〉を伺いますが(笑)、前作から3年の間に福岡から東京へ引っ越して来られたんですよね? 3人で一斉に?
大久保「はい、そうですね。前作を出した時点でバンド的にやり切ったっていうか、ずっとやってきたことは一旦完結したな、って思ったんですよね。だから音の面もそうですけど、変化を求めてて。そのひとつの手段として東京に出てきたっていうのはありますね」
――とは言え、上京してから所属レーベルがなくなって?
大久保「そうですね。レーベル自体がなくなっちゃって。それでもソニーに契約は残ってたんで、会社内で出しどころを探しているうちに契約期間が終わって、完全にフリーになって。最初はだから、今回のアルバムも自分たちで出そうとしてたんですよね」
――となると、制作はずっとされてたんですか?
大久保「ライヴもコンスタントにやってたし、曲作りもずっとしてました。でもまあ正直、東京に来て最初の頃とかは、あんまりうまくはいってなかったですね」
――うまくいってなかったとは?
大久保「なんか、バンドが全体的に(笑)。すごい試行錯誤してた3年間だったんですよね。最後の1年でレーベルも決まって、いい動きになったんですけど。単純にレーベルがなかったから出せなかったっていうのもあるし、バンドとしてもすごい、苦労してました」
――新しい環境を整えていくことに?
大久保「そうですね。東京に移ったっていう環境面もあるし、さっきも言ったんですけど、とにかく〈新しいことをやらなきゃ〉っていうのがすごいあって。ソニーにいた頃だと、別のレーベルから出すためにもっとこういう曲を作れ、っていうのもあって、そういう曲を作ろう、とかやるんですけど」
大内「流行りを追ってね」
大久保「うん、そのときは流行りを追ってた(笑)」
――その路線は結局ボツに?
大久保「時代と合わないんですよ(笑)。『FLASH』っていうのを3年半前とかに出して、自分たち的にはすごく納得いってて。でも、そういう渾身のアルバムを出したところで、自分たちが思っていたほど大きな反応がなくて。じゃあ、もっと違うものを出さなきゃな、っていうので、ちょうどその頃はニューレイヴがブームな時期だったから、〈もっとBPM速いのやらなきゃ〉とか(笑)」
大内「あと、尖ってみたりしてね」
大久保「そう。すっごく歪ませてみたり、速いビートでやってみたりしたんですけど、なんせ合わなくて(笑)。そのあともトロピカル・ブームみたいなのがあって、挑戦しようとするんですけど、まあなんか、歌詞の内容が俄然トロピカルじゃないから(笑)」
大内「全然幸せそうじゃない(笑)」
大久保「歌詞は暗いのに、音はやけに楽しげっていう(笑)。そういう曲も何曲か作ったんですけど、結局はボツになって。でもさっき言われたみたいに、チルウェイヴとかグローファイとかを好きになったときは、まんまサウンドがいっしょというわけじゃないですけど、比較的その、自分たちがやってきたことと近いし、世界観も受け入れやすかったというのがあって、そういった影響はさっき挙がった曲にもありますね。そこはやっとハマりました」
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