Photo by 宇宙大使☆スター
★11:00~ ASIAN KUNG-FU GENERATION @ GREEN STAGE
〈GREEN STAGE〉に2度目の登場となるASIAN KUNG-FU GENERATION。みずからフェスを主催し、今年は初日に同じ〈GREEN〉に立ったアッシュをはじめ、海外バンドを招聘して日本の音楽ファンに紹介 するなど、アクチュアルな活動を実践している彼らだけに、〈フジロック〉のメイン・ステージに立つことの特別な思いをMCで話してくれることを期待してい たのだが、実際に後藤が言ったのは〈言葉にならない〉という一言だけだった。もちろん、その簡潔な言葉に後藤の強い思いが感じられたことは言うまでもな い。ライヴそのものは、新たなモードに突入した『マジックディスク』からの楽曲でスタートし、“迷子犬と雨のビート”で一度目のクライマックスを迎える と、その後は怒涛のヒット・メドレーに突入。大きなステージが似合う“センスレス”から、“アンダースタンド”“君という花”の連打には興奮せざるを得な い。フェスであることをしっかり心得たその選曲には、〈もっと冒険してもいいんじゃない?〉と思いつつも、それもアジカンの誠実さの表れなのだろう、と。 そろそろ疲労が溜まってきた3日目の朝に、〈もうあと1日なんだから、しっかり楽しもうぜ〉と肩を叩かれたような、清々しいステージだった。*金子
★19:10~ ATOMS FOR PEACE @ GREEN STAGE
Photo by Masanori Naruse
トム・ヨークとフリーがいるグループということで、がぜん注目度も高かったわけですが、蓋を開けてみればやはりトム(トリコロールのヘッドバンドにタンクトップというちょっくらスポーツ・スタイル)の独壇場だったという。それは基本的に彼のソロ作『Eraser』からのナンバーをやっているというのもあるでしょうか……。さて本編では、振り返ればアルバムの曲順通りに進行。“The Clock”“And It Rained All Night”をはじめ、アフロ・テイストのミニマルなビートが音盤で聴くより際立ってフィジカル度を増し、なかなかのダイナミズムが生まれておりました。またフリーによるピアニカ(その姿はなんかカワイイ)とパーカッション、トムの呪文のような声と妖艶風なクネクネ踊りで魅せる“Skip Divided”や、ナイジェル・ゴドリッチのスペイシーなシンセとトライバルなビートが昂揚感を煽る“Cymbal Rush”なんかが印象的だったりと、独特な世界が広がっていました。
Photo by Masanori Naruse
そしてアンコール〈その1〉はトムが1人で登場。レディオヘッド“I Might Be Wrong”のアコギ弾き語りに、続く新曲(?)“Give Up The Ghost”も同じくアコギと歌だったものの、その場で録音したフレーズをどんどん重ねていって……というライヴであんなに上手くできるなんて流石!な技を用いた美しいナンバーを披露。ある意味これがいちばんのハイライトだったかもしれません。またアンコール〈その2〉はふたたび全メンバーが集結。特に“Hollow Earth”でのフリーと高速パーカッションのせめぎ合いパートがスリリングでした!
全体的に進行が冗長だった感じがしなくもないけど、このバンドでのオリジナル曲があったらさぞかし格好良いだろうよとつくづく思う次第。フリーをもっと活かした形でね。そんな淡い期待を寄せつつ……イイもの観せてもらいました! *加藤
★20:00~ EMELINE MICHEL @ GYPSY AVALON
〈ハイチ出身の歌姫〉という前情報のみで訪れた〈GYPSY AVALON〉。いま、ハイチ出身のアクトを招聘することには大きな意義が見い出せるし、実際そうするべきなのだけれど、まずは音楽あってのもの。その点において、彼女は掛け値なしに最高のパフォーマーだった。リハーサルでバンドがジョージ・ベンソンの“Breezin'”で肩慣らししていると、ポツポツ人が集まってくる。アトムス・フォー・ピースの裏だし、動員は厳しいかな……と無礼なことを考えていると、真っ赤なドレスに身を包んだエミリンがステージに颯爽と現れた。ステージ前がぬかるんでいたこともあり、遠巻きにしている観客を前に、まず1曲。恥ずかしながらハイチ音楽については不勉強だが、アフロ・ポップ色の濃いカリビアンという印象。歌詞はフランス語と現地語のミックスだろうか? それをエミリンのふくよかな歌唱と熟達した演奏で披露していく。明るく陽気で、トロピカルなサウンドに心が弾む。エミリンの〈カモン!〉の呼び掛けに、徐々に人が前方に集まると共に、演奏も熱を帯びていった。
そして〈私と踊りましょう!〉と言ったかと思うと、パーカッションやドラムスの即興に合わせ、細く編んだ髪を振り乱し、ダンスを繰り広げるエミリン。これで一気に観客のノリに火が点き、ステージ前は熱狂のダンスフロアに! その盛り上がりに、通りすがりの人も次々と引き込まれ、曲が終わるごとにダンスの輪と歓声がどんどん大きくなっていく。そして彼女のヒット曲“A.K.I.K.O.”のコール&レスポンスで、会場の昂揚は頂点に。このマジカルな光景には、彼女の音楽がどれだけ人を魅了するのかがはっきり表れていた。彼女の音楽の裏には、ハイチを巡る哀しみや憂いも少なからずあるはずだが、それでも、音楽では希望を明るく照らそうとしている。〈みんな楽しんでる? 良かった、それが私たちの唯一の願いなの〉というMCからも、彼女のそんな姿勢を感じた。本当に素晴らしいステージだった。*鬼頭
★21:30~ MASSIVE ATTACK @ GREEN STAGE
Photo by Masanori Naruse
「革命家を牢屋に入れることはできても革命を牢屋に入れることはできない。自由は決してただではない。――不明」。
本編のラストは“Inertia Creeps”。文字通り、いま、自分が踏みしめている足元を――地面スレスレを這うようなビートが不穏に鳴り響くなか、スクリーンに突然浮かび上がった一文を見て、思わずメモした。続けて、アウン・サン・スー・チー、サルトル、ゲーテ、マルコムXが発した自由に対するメッセージが流れるように現れては消える。そして〈世界人権宣言第一条〉を境に、言葉は〈自由のためには血を流すことも必要〉といった色を帯びていく。
断続的な豪雨に、山々を覆う闇は深い。けれど、この不安定な天候は彼らのサウンドに似合っているかも……などと考えながら待つこと約1時間。涼しげなウィンドベルの音色と共にメンバーが姿を現すと、オーディエンスたちの間から大歓声が沸き起こる。3Dが腕に巻いている日本語の腕章を凝視しているうちに、各々スタンバイが完了(ライヴ中にスクリーンを注視したところ、〈パトロール〉と書いてあることが判明)。2台のドラムを両サイドに据えたステージから発されたのは、ミニマルかつファットなビートと空中に拡散するような歌声――“United Snakes”である。
Photo by Masanori Naruse
この日は最新アルバム『Heligoland』にも参加していたマルティナ・トップリー・バード(コバルトブルーのパンツ・スーツ+目の周りをアイマスク風に縁取ったメイクが美しかった!)やホレス・アンディ、結構な恰幅の女性シンガーがゲスト・ヴォーカリストとして入れ代わりで舞台上に登場し、個性的な歌声を披露。『Blue Lines』『Mezzanine』あたりの楽曲も組み込まれたセットリストも楽しめる内容だったが、約1時間半のステージの間、とにかく一環していたのは彼らの〈レベル〉な側面。〈菅内閣解散〉〈中居クン腰痛〉といった日本の(ガセ)情勢をユーモラスに挿入しつつ、各国の株価などを記号として採り入れたVJと仄暗いサウンドとをシンクロさせながら、次々と問題を提起する。
アンコールでは、とうとうその矛先がその場に集まったオーディエンスに向かう。まずは、3D、ダディ・G、ホレスの3人で先導した“Splitting The Atom”において、不景気なニュース・トピックをスクリーン越しに浴びせかけた挙句に、観客に向かってこう問いかける。
「じゃあ、あなたの一週間はどうでしたか? コメントはただです。あなたの思っていることを言ってください」。
フィナーレは“Atlas Air”。世界的企業名やロゴの映像が明滅するなかで、厳かにリフレインするパイプオルガン風のリフ。その音色に粛然としながらも、快楽を刺激するビートに身を任せずにはいられない。その矛盾たるや。
彼らが放り投げた〈意志〉は、間違いなく観客一人一人の元に届いたはずだ。そのメッセージをどう受け止めるかは各々に委ねられているが……さて、私はどうしようか。*土田
★23:40~ SCISSOR SISTERS @ GREEN STAGE
Photo by Masanori Naruse
場内の移動や豪雨による疲労もすっかり吹っ飛んでしまう、3日間の打ち上げに相応しいステージが最後に待っていた。雨がいっこうに止まない状態でも、演奏が始まった途端、どこからともなくオーディエンスが集まり、気が付けば〈GREEN STAGE〉は巨大なダンス・フロア状態。最新アルバム『Night Work』は挑発的なエレクトロ・サウンドを武器とした、それまでのポップな作品とは一味違う仕上がりだったが、この日はその最新作の方向性をしっかりステージで表現しつつも、“I Don't Feel Like Dancin'”のようなヒット曲を軸にゴージャスに華麗に魅せる演出も忘れてはいなかった。ビートにまとわりつくようなジェイクの腰の動きにはこっちまで身悶えさせられたが、何たってクライマックスはジェイクとアナの絡み。ドラァグ・クイーンさながらに服を1枚1枚脱ぎ捨て、最後は黒いブリーフ1枚になったジェイクの下半身に釘付けとなりつつも、ただ楽しませるだけではなく、真剣な表情でオーディエンスを見据える彼の横顔に、性差を超えた彼らがポップ・ミュージックで伝えようとしていることの真理を見た気がした。彼らは本物だ。本物のアート・パフォーマーだ。もう、毎年クロージングはシザー・シスターズでいいじゃん! *岡村