LONG REVIEW――kamomekamome 『Happy Rebirthday To You』
KCHC(柏シティー・ハードコア)。その語源になったとも言える――90年代に柏をハードコアの聖地たらしめたバンド、ヌンチャクの中心人物=向達郎。その彼が率いるkamomekamomeの取材当日、筆者はやや緊張していた。彼らが鳴らしている殺伐とした音楽性もその理由だが、向の背景に広がる〈柏という街〉に対してある幻想を抱いていた、ということもあったのだと思う。そして実際に対面した向はまず見た目に圧倒されたものの(背が高い)、言葉を慎重に選びながら、訥々と、率直にものを語る人だった。ギターの織田もそうだが、そのぶん、発言に重みがある。
和やかながら緊張感に貫かれた1時間のなかで、筆者の印象に残ったのは〈制作中、メンバー間では「必ず殺す」という言葉がキーワードになっていた〉という話だった。そう、彼らの新作『Happy Rebirthday To You』は、初めて耳にした際に〈これ、kamomekamome?〉と軽い驚きを覚えたほどに、キメどころにきっちりとわかりやすいキラー・フレーズが埋め込まれている。正式メンバーとして復活したベーシスト、中瀬とのデス声/歌い上げ系のヴォーカルを使い分けた壮絶な掛け合いでいきなり急所を突く、という端的な変化もあるが、歌を支えるオケにも多くのフックが用意されている。
考える前に、理性が何かを判断する前に、飛ぶ。聴き手のカタルシスが一気に頂点に達して迸り出す――誤解のないように言い添えると、kamomekamomeの特徴である変拍子と転調を多用し、ファスト&ラウドに畳み掛けるサウンドは健在すぎるくらいに健在だ。そこに、例えばツイン・ギターによるユニゾンやハモリを随所に採り入れたりなど、ハード・ロック、ニュー・メタル、メタルコアのおいしいとこ取りのような断片をこれまで以上に散らしており、スリリングに激走する音塊にアクセスしやすい作りになっている。
そして、本作におけるより顕著な変化は、向が描く詞世界だ。過去と現在をあるがままに受け入れ、柏という街の一部として暮らす彼の姿が、混沌としたサウンドのなかに浮かび上がっている。その、どこかささくれ立った詩情が胸に消えない掻き傷を残す。
思うに。筆者が街に幻想を抱く理由は、そこに詩情があるからだ。例えば、吉村秀樹(bloodthirsty butchers)や吉野寿(eastern youth)を輩出した札幌、向井秀徳や向井に影響を与えた吉田肇(PANICSMILE)を育てた博多。そして、本作を生み出した柏。実際に訪れてみれば、何の変哲もない普通の街なのだろう。だが、kamomekamomeが鳴らすエモーショナル・ハードコアには、聴き手にひとときの幻想――街に溶け込んでいる人々の日常を垣間見せる生々しい詩情と、それを音像化できるだけのエネルギーがある。ライヴでこの音を直に浴びたら正気でいられるのか。無理だろうな。そんな作品を完成させた彼らはいま、最強の状態だろう。