インタビュー

LONG REVIEW――iLL 『∀』

 

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NYANTORA名義も含め、iLLが作品ごとに異なる側面を提示するのは、彼のなかに存在する音楽性がそれだけ幅広いということを意味している。

インタヴューの場で彼の話を聴くたびに強く感じるのは、彼は音楽の作り手であると同時に、聴き手としてのパーソナリティーも多分に保有しているということだ。けれど、その両方の視点から派生する複数のアイデアを一度に実現しようとすると、作品としての統一感――つまり、〈ポップ・ミュージックであるという前提〉をキープすることが難しくなる。それも彼はわかっている。

では、どうする? そんな命題に対するiLLからの回答のひとつが、今回のコラボレーション・アルバム『∀』のように思える。

山本精一+勝井祐二とのスピリチュアルなドローン“Telepathy Alternative”にはじまり、クラムボンとのアンビエント大作“Voyager”で終わる本作には、向井秀徳とのディスコティークなエレクトリック・ファンク“死ぬまでDANCE”やPOLYSICSとのニューウェイヴ・パンク“Broken Toys”など、クレジット不要の強烈なゲストが勢揃いしている。

それはリミキサー陣もしかりで、“iLL come”をミニマルな骨格までに解体したALTZや“Melt Girl”をダビーな深海テクノへ変貌させたDAZZ Y DJ NOBUといった〈その筋の剛腕〉がテクニックを披露しているが、そういった〈点〉で存在するポピュラリティーを自身を媒介とすることで〈線〉へと繋ぎ合わせ、最終的には〈iLLの新作〉として説得力を持たせた全13曲は、どこを取っても、響いてくる音がとんでもなくわかりやすい。自身の個性を触媒程度(それにしても前述のアーティスト級に記名性は高い)に抑えたところが勝因なのだろうが、そういうジャッジができること自体が素晴らしいと思う。

個人的には、鬼のようなノイズを浴びせかけるABRAHAM CROSSとの“Drones ”と、小出祐介(Base Ball Bear)のラップが聴ける“歌ってるんだBaby”が同じライン上に並んでいることにいたく感銘。自身が包含する音楽性を常より多く忍ばせつつ、さらに〈2010年の日本の音楽シーン〉をテーマにしたミックスCDのような機能性も持たせたこんな作品を作り上げてしまうiLLという人には、やはり底知れない才能を感じる。

 

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掲載: 2010年06月23日 18:00

更新: 2010年06月23日 21:19

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