INTERVIEW(2)――同時代に鳴っているものを俯瞰したかった
同時代に鳴っているものを俯瞰したかった
――ただ、iLLというアーティストとして関わる場合、そこに基本はポップ・ミュージックとしてのカジュアルな感覚とか、コンパクトな感覚とかっていうのも当然無視できないわけですよね? 実際、少なくともiLLとしての作品は、そうした即興の経験を積んでも、どんなスタイルになっても1曲はどれもコンパクトでキャッチーなものに収まっています。
「そうですね。やっぱり人の集中力ってそうそう長く持続できないと思うんですよ。ポップ・ミュージックならせいぜい3分とか(笑)。ビートルズの時代からそれで成立してるわけですよね。まあ、10何分ある曲も好きですけど……曲によりますよね」
――言わば柔軟な発想と、ポップ・ミュージックのマナーみたいなものとのバランスが変化してきたということですね。では、今回のアルバムにおいては、そうした経験がどのように活かされていると思います?
「んー、まあ、いちばん出ているのは、メロディーやコード進行まですべてそのアーティストに委ねるような姿勢がどの曲にも出ているということですね。僕がリミックスしたものもそう。丸投げにしているものもあるし、どのように変化してもいいし、そこを楽しみたいという思いも出ていると思います。もともと、歌だけ参加とかギターだけ弾いてもらうって形で参加してもらって、それがコラボレーションっていうような感じにはしたくなかったんです。いっしょに何かモノを作りましょうって姿勢。それが基準にあったから、自分の曲がまったく元の状態じゃなくなることにも抵抗はなかったですね。何をやりたいか、どういうことをやりたいか、ってことが最初にあったわけではなく、その相手といっしょに作るってことがやりたかったわけですから」
――曲ありき、ではなく、〈誰とやるか〉ありき。
「そうです。だから、最初にこちらからいっしょにやりたい人をバーッと挙げて打診して……みたいな感じで進めました」
――例えば、向井くんなら向井くんといっしょにやったらこういう感じになるだろうな、こういうふうになるかもしれないな、といった予想図のようなものは少しは考えていたのですか?
「まあ、楽曲に反映するかどうかはともかく、音楽で会話はできるよね、というような安心感みたいなものは全員に対して持ってましたね」
――私がとりわけ今回のアルバムで興味深かったのは、向井くん、mitoくんという、ほぼ同世代で、ほぼ同じ時期にデビューしている人と組んだ曲があることなんです。これまで、勝井さん、益子さんら上の世代の人と組むことはあっても、90年代後期にキャリアをスタートさせた同世代と組むことってあまりなかったでしょう? で、最近はthe telephonesのプロデュースもしていて下の世代にも伸びている。でも、同世代とはいま一つ繋がりが見えなかったんですよね。実際、向井くんに至っては、今回の作業で初めてちゃんと会って話したそうじゃないですか。これによって、上の世代、同世代、下の世代がすべて揃うことになった。これって結構重要なことのように思えるんですよ。
「うん。なんかね、音楽を意識したことはなかったわけじゃないんだけど、たまたま機会もなくて。でも、同じ時代に出てきて、みんな何らかの形でいまも音楽をやっていて……ってことを考えると、まあ、mitoくんもそうなんだけど、ちょっとおもしろいなって思えますね。元々このアルバムは、最初にいっしょにやる人の年齢層が幅広ければ広いほうがいいなって思っていたっていうのもあって。実際、確かにここには40代、50代の人もいれば、自分より若い世代もいて。そこに、自分と同じ時代にバンドをやってきた人もいるわけじゃないですか」
――世代を総まくりしたような作品になった、その思惑というのはどういうものだったの?
「同時代に鳴っているものを俯瞰して見たかったというか、俯瞰したような作品にしたかったんですよね。その現場を切り取りたかったんです。例えば、実際にいまの時代には、ABRAHAM CROSSのいる現場があり、moodmanがいるカルチャーの現場があり、Base Ball Bearがいる場所があり、そしてもちろん僕がいて……って感じで散らばっている。でも、それぞれの音楽を全部俯瞰して聴いている人もそうそういない。そういう状況、おもしろいですよね」
▼『∀』に登場するアーティストの作品(その1)
- 前の記事: INTERVIEW(1)――その瞬間瞬間で決めていく
- 次の記事: INTERVIEW(3)――どの現場もおもしろい