INTERVIEW(1)――普遍的な音を作りたい
普遍的な音を作りたい
――今回“subliminal”を聴いて、やはり2001年に発表された『LOVEBEAT』が、現在の砂原さんの音楽の起点になってるなと感じました。
「その通りだと思います。『LOVEBEAT』を出してからソロ・プロジェクトではどういう形で活動していけばいいのかが明確になりましたから。逆に制限ができてしまったとも言えるんですけどね。〈俺はこういうことしかやらない〉っていう枠組みが決まってしまった」
――その枠組みは、かなり具体的に設定されているものなんでしょうか。
「別に弾き語りをやったっていいわけですけど、それはないな、とか(笑)。極力、自分のスタジオで自分ひとりでどこまでできるか、ということを考えてます。セカンド・アルバムの『Take Off And Landing』の頃までは〈この曲はあの人を呼んだらいいかな〉みたいなアイデアを持っていたんですけど、いまはちょっと違うかなと。なんでそう思うのかは、自分でもよくわからないですけどね。あと、この間から始めた(いしわたり)淳治くんとのユニットでは、ポップスのスタイルのなかで何ができるかを追求してみようと思ってるんで、ソロではますますそういうことはやらなくなると思いますね」
――ファーストの『Crossover』も、セカンドをはじめとする飛行機をモチーフにしたシリーズ作も、それぞれ別の方向を向いた作品だったと思います。でも『LOVEBEAT』には、とりわけそれまでの作品からの飛躍を感じました。どういうところからあの作品が生まれたんでしょうか。
「やっぱり、そこで変わったんですよね。『LOVEBEAT』の前作にあたる『The Sound Of 70's』の頃までは、おとぎ話的な音楽をやることも許されていたんですよ。社会状況もいまほどシリアスじゃなかったし、まだ世の中が良くなるような希望が残っていた。でも『The Sound Of 70's』が終わって、こういう音楽はここまでだなと思ったんです。〈次は大変だぞ〉って」
――社会とは隔絶したところでストイックに音を作られてるようなイメージを勝手に抱いていたので、いまのお話はとても意外でした。
「いやいや、世の中の現状がどうであるかを棚に上げてやるのはナシだなと。こういう状況があって、そのなかで自分は生活しているので、そこから出てくる音楽をやりたいと考えてます。とは言え、社会に対する何がしかのメッセージを作品のなかでわかりやすく出してるわけではないし、そういうことだけを追求するんだったら、別に音楽を作る必要はないですからね。それこそ選挙カーに乗って演説すればいいわけで(笑)」
――『LOVEBEAT』から、具体的には完全にエレクトロニックで、シンプルかつミニマムなサウンドへと変化しました。
「それまでは何か新しい音楽があればそれをやってみたいと思ってたんですけど、だいぶ僕も歳を取ってきまして(笑)、そういう考えがなくなった。新しいものはその瞬間だけ新しくて、ちょっと時間が経つとどうしても古いものになってしまうという宿命があると思うんです。そうじゃなくて、もっと普遍的な音を作りたい。そういうふうにシフトしてきてるなってことは『LOVEBEAT』を作ってる途中で気付いたことです」
――普遍性を追求したら『LOVEBEAT』の独特なサウンドが生まれた。
「例えば、長いことやってきたミュージシャンの音楽が、ドラムとギターとベースだけのものになったりするじゃないですか。それって多分、どんどん本質に近付こうとした結果だと思うんですよね。でも、自分の音楽の本質はドラムとギターとベースじゃない。僕の場合はドラム・マシンとアナログ・シンセとサンプラー。極端な話、これだけあればいいんです。どんどん生楽器とかの有機的なサウンドを排して、電子音に特化してきてるのは、そういうことなんじゃないかと」
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