インタビュー

INTERVIEW(3)――太いマジックで描く製図

 

太いマジックで描く製図

 

砂原良徳_A2

――それは『LOVEBEAT』が、ということでしょうか。

「今回の“subliminal”もそうですね。作ることに時間がかかってるわけじゃなくて、良し悪しの判断に時間がかかってしまうんですよ。単に新しいものを出すってことなら3日4日の判断でできるんですけど、それが普遍的なものかどうかをジャッジするのにもの凄く時間がかかっちゃうんですね。そういうところがまだ青いというか未熟な部分です」

――普遍性のあるものを出そうという気持ちがあるがゆえに、9年のインターヴァルが空いてしまった?

「理由はそれだけじゃないんですけどね。『LOVEBEAT』の頃はミックスもできれば自分で、っていう考え方だったんですけど、今回はある程度客観性を入れたかったので、ミックスをROVOの益子(樹)さんに頼みました」

――“subliminal”はいつ頃から制作されていたものなのでしょうか。

「いちばん古いところでいうと、音のファイルを見たら2002年っていうのがありましたね。とは言ってもその頃の曲の原型は留めてない。音色とかビートのループとか、パーツのみが生きてるということです」

――いろんな時期に作られたパーツを、楽曲としてまとめられたのが最近ということですか。

「まったくそういうことです。曲として完成したのは、すべてここ1~2年くらいです」

――これは『LOVEBEAT』の延長線上にある音楽だとは思うんです。ただ『LOVEBEAT』では同時代の音楽の影響を意識的に排除してるように感じたんですね。その頃っていわゆるエレクトロニカが市民権を獲得しはじめるくらいの時期だと思うんですけど。

「そういうものを採り入れようって考えが自分のなかになかったわけじゃないんです。でも、あの手法は、たぶん自分の本質とは違うなって思いはすでにありました。エレクトロニカって絵で例えると、点描とか細い線で描く……みたいな手法だと思うんですよ。それから機械で作る音楽ではあるけど、突き詰めていくとフリーハンドの絵というか、生楽器っぽいニュアンスになっていく」

――そうですね。

「でも『LOVEBEAT』って〈太いマジックで描く製図〉みたいな音楽なんですよね。だからまったく対照的だと思います」

――『LOVEBEAT』が〈太いマジックで描く製図〉ってのはすごくわかりやすいお話ですし、まったくもってその通りだと思うんです。だけど今回の“subliminal”は、その例えで言うと、もっと細い線の表現が入ってきてますよね。

「そうなんですよ。その理由は……わからないです(笑)」

――(笑)。

「前に小山田(圭吾)くんともそういう話になったんですよね。『LOVEBEAT』を出した時期に彼は『POINT』を出して、どっちも極端に音数の減った作品だったわけです。でも〈最近どう?〉って訊いたら〈また(音数が)増えてきてるんだよね〉って。その理由を尋ねてもやっぱり〈わかんない〉と(笑)。なんででしょうねえ……」

――理由はわからないけど、この音が生まれた。

「無意識なんですよね。こうなっちゃったという。もう少し時間が経てばわかると思うんですけど。だから結局、こういうことは短いスパンじゃわからないんですよ」

 

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掲載: 2010年07月28日 18:01

更新: 2010年07月29日 12:06

インタヴュー・文/澤田大輔