INTERVIEW(2)――自分が日々変化してる
自分が日々変化してる
――砂原さんの音楽はよくクラフトワークを引き合いに出されると思うんですが、僕はそれと同じくらいアート・オブ・ノイズとの共通項も感じるんですよ。彼らの音楽には、すごく独特の優雅で贅沢な響きがある。それに近いものを『LOVEBEAT』のなかに見つけることができるというか。
「アート・オブ・ノイズは確かに独特な感じがあって、例えば他のレコードとミックスしてもきれいに混ざらない。クラフトワークもそうですね。それは僕も感じることで、自分の音も、やっぱり他の音楽と上手く混ざらないんですよ。その理由ははっきりとはわからないんですけど……やっぱり自分節みたいなことかもしれないですね」
――鳴り方からして違う、みたいなところがありますよね。
「他人の音楽を聴いてないからかもしれない(笑)。以前はそれこそ、他の人がこういう音を出してたから、じゃあ俺はこういう音にしようとか、そういう考えがあったんですけど、いまは音楽を聴いて音楽を作ろうって気になることはほとんどないです。ほとんどというか、もうゼロですね」
――『LOVEBEAT』で新たな方向に踏み込まれたわけですが、いきなり決定打のような作品が出来上がってしまったんじゃないかと思います。ご自身では完成した時、どう思われましたか?
「〈これは完成してるのかな? 完成してないんじゃないか?〉って感じでしたね。でも、このままやり続けても終わらない。それで、このへんで1回、線を引こうと。線を引けば、とりあえずどこまで来たかはわかりますから。ただ、あのアルバムには“balance”って曲が入ってるんですけど、あの曲のコンセプトとものの見方を発見した時には、これだけあればまあいいだろうって思ったんですよね。そういうものをあのアルバムのなかでいくつか見つけることができたんで、それは成果だったなと思います」
――その“balance”で発見したものっていうのは、具体的にはどういうことなのでしょうか。
「説明するのが非常に難しいんですけど……ものごとが成立してるということは、不安定であれ安定しているのであれ、あるバランスのうえで成り立ってるという見方ですかね。例えば、いま人が生きてられるのは、いろんなことのバランスがあってですよね。でもCO2が増加していったら、どこかの地点で均衡が失われて駄目になる。環境問題に限らず、そういう無数のファクターのバランスのうえで人は生きている。そういう視点が、どんなものごとに対しても有効だと思ったんです……うまく説明できないんですけど」
――そういうアイデアがあって、そこから曲が生まれる。
「ほぼそうですね。『LOVEBEAT』の直前くらいに自分の作業場を作って、そこでほぼ毎日、土日もなく制作してるんですけど、常に音を出してるわけじゃなくて。やっぱり考えてる時間がいちばん長いんですよ」
――先ほどおっしゃられた、楽曲のコンセプトのようなものを見つけ出すということですか。
「はい。ビートは半無意識みたいな状態でも、座ってれば2時間くらいで出来るんですよ。でも、それ以前のテーマみたいなものがどうしても必要なんですね。だから〈このフレーズがかっこいい〉みたいなところから曲が出来ることはほとんどないです」
――先ほど、〈完成してるのかどうかわからなかった〉って話がありましたけど、それはシンプルな音楽だけに、いくらでも変化させることができるからなのでしょうか。
「やっぱり個の作業なんで、客観的に見れなくなってくるんですよね。それで完成形がどこかわからなくなる。今日作った音が〈すげえ良いな〉って思っても、1週間後に聴くとあまり良くなかったりする。逆に、作ったけどあまり良くないなと思って放っておいたものを10日後に聴くと〈これ良いかも!〉って思ったり。なんでそういうことが起きるのかというと、つまり自分が日々変化してるんですよね。健康状態、精神状態、ものの考え方とか、気温に左右される部分もあるだろうし。だから、いろんな自分で試さなきゃいけないわけです。それで時間がかかってしまった」
- 前の記事: INTERVIEW(1)――普遍的な音を作りたい
- 次の記事: INTERVIEW(3)――太いマジックで描く製図