INTERVIEW(4)――何が自由かってことが問題
何が自由かってことが問題
――個人的にいちばん衝撃を受けたのは1曲目の“First Step”なんです。シンプルな曲だとは思うんですけど、すごく不思議な聴き心地で……。
「自分でもそう思ってます。〈これなんだろう?〉っていう(笑)」
――砂原さんの楽曲には、ひとつのシンプルなループが基本になってるものが結構多いと思うんですけど、この曲は違いますよね。いろんなものが絡み合って波のようなうねりが生まれている。聴いていると自分の足元があやふやになるというか。
「益子さんが言うには、この曲は3拍子らしいんですよ。僕は何拍子だかも全然わからなくて。デフォルトの4分の4拍子の世界から解放されなきゃと思っていて、ただ1拍は1拍として捉えようと。それで出来た曲なんです」
――ご自身でも掴みきれないまま、凄いものが出来てしまった。それはマジックが起きたと言い換えてもいいと思うんですけど。
「極力、人のことを気にしないで、自分のスタジオのなかで雑音を排除して作っていったら上手くいった例ですかね、これは。こういうものがバンバン出来たらいいんですけど……なかなか難しい」
――“Unconscious Fragment”はアブストラクトな印象で、それが新鮮でした。砂原さんの音楽は決して押し付けがましくはないですけど、なんらかのイメージを喚起させるものだと思うんです。でもこの曲は空中に放り出されるような感じというか、掴みどころがない。
「さっきの話にも通じるんですけど、テクノやハウス、ヒップホップとかって4分の4拍子で、かつ4小節ごとに展開していくものがほとんどですよね。先が読めてしまう。それじゃあおもしろくないから、もっと無意識に曲を作ろうと思ったんですけど……でも結局、完全に無意識で音楽を作るのは無理なんですよね。そういうふうに考えてる時点で、意識的な無意識になってしまいますから」
――なるほど。
「“Unconscious Fragment”は意識的に無意識の状態にしたうえで作った曲なんです。だからルール抜きで、自由なところで展開していく。自分のなかではやや実験的な要素が強い曲ですね」。
――砂原さんの音楽では、最初にある枠組みを設定することが重要なのかなと感じてるんですけど……。
「決めごとを設けるというか、決まってきちゃったという感じなんですよね。〈ここから出ちゃダメ〉って決めてやってるわけじゃないんですけど、どんどん決まってきちゃう」
――お話を伺ってると、いまはその枠組みをを守りつつ、崩しつつ、いかに自由なものが作れるか、ということを考えてるのかなと思いました。
「ああ、そうですね。そういうことだと思います。何が自由かってことが問題ですよね。やらないことも自由かっていうね(笑)」
――“subliminal”はアルバムに先行するシングルという位置付けですが、アルバムがどういうものになるかというのは、もう見えてきてるのでしょうか?
「まだ見えてるわけではないですが、ここから極端に変わるということはないと思います。ただ、例えば『LOVEBEAT』に“earth beat”って曲があるんですけど、この間そのデモ・ヴァージョンが出てきたんで聴いてみたら、完成形とはまるっきり別の曲だったんですよ。あの曲ってマイナー・コードだけどデモではメジャー・コードだったり。で、いつ変わったんだろうと思って履歴を見たら、ミックス・ダウンの3日前に変えてる(笑)。なので、ここに入ってる曲が、アルバムでは全然違ったものになったりする可能性もあると思います」
▼砂原良徳の作品