インタビュー

agraph 『equal』

 

agraph_特集カバー

 

[ interview ]

石野卓球や電気グルーヴの制作&ライヴをサポートしてきた牛尾憲輔のソロ・プロジェクト=agraphがセカンド・アルバム『equal』を完成させた。デビュー作『a day, phases』ではダンス・ビートを排した大人のリスニング・テクノを展開した彼だが、約2年を経て届けられた新作ではエレクトロニカや現代音楽に接近。叙情性たっぷりの作風はそのままに、耳触りのまったく異なるサウンドスケープを紡いでいる。大胆な変化を遂げた若き電子音楽家がこれまでのキャリアを、そして野心たっぷりのニュー・アルバムを饒舌に語る。

 

 

叙情的なものが好きだった

 

――キャリアの出発点は石野卓球さんの制作サポートですよね。卓球さんのスカウトと聞きました。

「スカウトというか……2003年に20歳になって、ようやくクラブに行けるようになったんで、以前から好きだった卓球さんのパーティー〈STERNE〉に遊びに行ったんです。で、プラプラしてたらバーのところで卓球さんがお酒を飲んでいて、僕はすごい図々しい性格なので(笑)、声をかけちゃったんですよ。当時は大学に行きながらプロトゥールスのエンジニアのバイトをしてたんですけど、そういうことをお伝えしつつ〈デモ聴いてください〉とか、失礼な話ですけど〈仕事ください〉と言ったら、〈いまちょうどアルバムを作っててプロトゥールスを使えるやつが欲しかったんだよね〉って。その1か月後くらいに電話がかかってきて〈明日からスタジオ入るから来て〉って(笑)」

――すごい話ですよね。たまたまタイミングがばっちり合ったんでしょうけども。

「僕もいまになって、クラブで声かけてきただけのやつがよく使ってもらえたな、と思います(笑)」

――プロ・トゥールスはどこで学ばれたんですか?

「東京工科大学のメディア学部というところに通ってたんですが、そこに個人では買えない業務用のプロトゥールスがあったんですよ。で、使い方を覚えていくうちに〈仕事になるから〉って学校でバイト先を紹介してもらって」

――卓球さんのサポートをされる前から自分の音楽は作ってたんですか。

「ええ。ぼくが聴いてきたものってずっと電子音楽なんですよ。もともと小学生の時に浅倉大介さんがやってたaccessを見てミュージシャンになろうと思って」

――確かに電子音楽ではあります(笑)。

「accessを聴いて、TMNとかTM.Revolutionを聴いてっていうのが中学生くらいの時期で。その後に友達に聴かせたもらったクラフトワークの“Computer Love”がとにかく衝撃で、ディレイがかかってるだけのブレイク部分をひたすらリピートして聴いたりしてました。で、高校時代に卓球さんがやってるパーティーとか、かけてる曲の情報なんかが入ってきたんです。当時、卓球さんは昔のエレ・ディスコを結構使っていて」

――テクノのシーンで80'sリヴァイヴァルが巻き起こった時期ですね。

「もっと遡ると、僕の家は音楽教室で、自分もピアノを弾いてきたんです。中学生くらいで坂本龍一さんの曲を弾くようになったんですけど、そこからの流れで高校時代にはYMOに辿り着いた」

――別の流れで追ってたものが80年代のエレポップとかエレ・ディスコで合致したと。

「そうなんです。ジョルジオ・モロダーとかDMXクルーとか、そういうものを聴いてました」

――最初に発表した作品は卓球さんのレーベル、Platikのコンピ『Gathering Traxxx: Vol.1』に収録された曲だと思うんですけど、あの時点でもう現在のagraphに繋がる音楽性でした。エレ・ディスコからどういう変遷を経て、あのサウンドに辿り着いたんですか?

「エレ・ディスコは好きでずっと作ってたし、卓球さんに声をかけていただいた時もそういう曲を最初は聴いてもらったんですけど、評価が芳しくなかったんですよね。いま思えば、自分は80'sムーヴメントに対する憧れが強くて、それだけで作ってたんじゃないかと。自分のパーソナリティーに根差したものじゃなかった」

――なるほど。

「僕はピアノが出自で、高校の頃はrei harakamiさんの『Red Curve』をすごく聴いていたり、叙情的なものが凄く好きだったんですよね。そういう音楽を作ろうと思って出来たのが、コンピの1曲目に入った“colours”でした。あの曲を卓球さんはすごく評価してくださって。あれがきっかけで自分の意識が変わったと思います」

――卓球さんという第一線で活躍してる人の現場にいきなり飛び込まれたわけですけど、そこで学んだことはありますか?

「卓球さんは僕と同じソフトウェアを使ってたし、曲の作り方もそんなに変わらなかったんです。それなのに卓球さんはあんなすごい曲が作れてしまう。それがずっと謎だったんですけど、卓球さんはプロデューサー的な視点を持っていて、全体を高い次元で眺めてるんですよね。例えばテクノって、4つ打ちのキックとハットとスネアが入ってれば踊れるように思われがちですけど、実はそのひとつひとつの音が噛み合って、歯車みたいに機械的に動くようになってないといけない。そういうダンス・ミュージックのマナーは石野さんを通して学んだことです」

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掲載: 2010年11月03日 18:01

文/澤田大輔