INTERVIEW(3)――現代音楽からの影響が根底にある
現代音楽からの影響が根底にある
――そうですね。前作はテクノ・アルバムでしたが、新作『equal』はエレクトロニカを積極的に採り入れたリスニング色の強いアルバムだと思いました。かなり大きくサウンドが変化してますよね。
「まずファーストを作った時に技術的な課題が残ったので、それを解決したかったというのがあります。後はやっぱり新しいことをやりたかったんですよね」
――その課題というのは?
「ファーストは、温かみのあるこもった感じの音にしていたんです。それってrei harakamiさんに対する憧れがあったからなのかなと思うんですけど。それで、周波の高いキラキラした音は使ってなかった。そういう高い音域の部分でいろいろやれる余地があると気付いたんです」
――全編で自身のピアノをフィーチャーしているのも印象的でした。
「シメオン・テン・ホルトという現代音楽の作曲家がいるんですけど、彼の“Canto Ostinato”という作品を、アルバムを制作しはじめた頃に聴いて、それが大きな契機になりましたね。6台のピアノを使ったミニマル・ミュージックで、そのピアノが空間で響いてる感じにすごい感銘を受けて、そういう響きを作ろうと」
――ピアノがある場で鳴っているアンビエンスを、そのまま取り込むみたいなアイデアですかね。
「ええ。最初にお話ししたように、僕はもともとピアノから音楽に入ってるので、セカンドではピアノを弾きたいなと思っていて。で、さっきのシメオン・テン・ホルトを聴いたことで、こういう発想ならピアノを取り込めると思ったんです」
――前衛的な現代音楽や電子音楽からの影響はかなり大きいんでしょうか?
「現代音楽からの影響が根底にあるんです。そこに他の趣味嗜好が入ってきた結果、こういう形の作品になってるんだと自分では考えてます」
――でも、agraphの作品は決して難解で実験的なものではないですよね。
「僕はジョセフ・コスースという60年代のコンセプチュアル・アートの方とか、もっと遡ればマルセル・デュシャンとかにすごく影響を受けていて、常にコンセプトをもとに音楽を作ってるんです。で、コンセプト主導の現代音楽には、論文片手に文字を追いながらじゃないと聴けない曲もたくさんあるんですけど、自分の場合はそうではなくて、作品単体でポピュラリティーがあってちゃんと聴ける、でも実はその後ろには一貫した論理がある……って音楽をやりたいんですよ」
――そこまでロジカルに音楽を作られてるんですね。ちょっとびっくりしました。
「最初にユニット名を考えている時、〈~graphic〉がいいなと思ってたら卓球さんと川辺(ヒロシ)さんに〈アタマでっかちのグラフだから、~graphにしたら?〉って言われたというエピソードがあるんですけどね……(笑)。そういうアタマでっかちな部分が極端に出てしまったのが、今回のアルバム・コンセプト。ものすごく人に説明しづらいんですよ」
―― 一応ご説明いただけますか(笑)。
「夜の海を見たり、丘の上から夜の街を見下ろしたりっていう経験があって、その2つを貫くものって〈見えない〉ってことだと思ったんです。そういう、あるはずのものが見えてない風景と自分の存在ってすごく均衡が取れた状態……アルバム・タイトルにもなってる〈equal〉という状態じゃないかと。そういうことをコンセプトにしてるんですけど、こう話していても〈何を言ってんだ俺は?〉っていう(笑)」
――他人と共有しづらいものであっても、コンセプトを立てること自体が牛尾さんのなかでは重要ってことですかね。
「ええ。そのコンセプトが楽曲を作る燃料になる。コンセプトと、技術的な課題。その両輪が上手く揃うとアルバム作りが回っていくんだなってことを今回強く実感しましたね」