インタビュー

LONG REVIEW――agraph 『equal』

 

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2008年作のデビュー・アルバム『a day, phases』では、石野卓球の制作アシスタント出身という経歴を感じさせないパーソナルかつ叙情的なエレクトロニック・サウンドを展開し、バレアリックなどの文脈から高まっていたチルアウト~アンビエント・ミュージック再評価の機運も手伝って、クラブ通いのパーティー・ピープルからベッドルーム・リスナーまでの心をガッチリと掴んでみせたagraph。続く本作でも、その鳥の羽ばたきのように柔らかなサウンド・タッチと、どこか物憂げで感傷的な気持ちを喚起するサウンドスケープは、健在どころかますます冴えを見せている。

夜明けのような清涼感に満ちたナンバー“lib”で幕を開けると、室内楽的な要素をアクセントに採り入れた“blurred border”、ドラマティックなメロディーとダイナミックな曲展開が聴く者を昂揚させるアルバム随一のハード・チューン“static,void”、はしゃぐ子どものようにグリッチーなビートが飛び跳ねる“nonlinear diffusion”など、さまざまなイメージとニュアンスを纏った楽曲たちが次々と美しい風景を紡ぎ出していく。ビル・エヴァンス“Danny Boy”をチョップ&フリップした幻想的なジャズ・トラック“a ray”を経由して、アルバム本編のラストを飾るのは、神秘的な夜の深奥へ潜るかの如く、時間をかけてゆっくりとダークな色合いを深めていく2部構成の大作“while going down stairs”。砂原良徳が全曲マスタリングしたサウンドの粒立ちと強度は言わずもがな、agraphの音楽に対する真摯な姿勢が作品全体を貫いており、そのピュアな志はあなたの心を真っ直ぐに射抜くはずだ。

 

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掲載: 2010年11月03日 18:01

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