インタビュー

INTERVIEW(2)――気持ちを動かすことに特化した音楽

 

気持ちを動かすことに特化した音楽

 

――つまり、いろんなシーケンスが絡み合うことでグルーヴが生まれるということですよね。そこを追求したのが、agraphのファースト『a day, phases』だったんじゃないかと感じました。そういう意味で、前作はストレートなテクノ・アルバムだと思うんですが。

「それはもうおっしゃる通りで、ファーストはテクノ・マナーに則ってますね。だからダンサブルではないけど、4つ打ちのキックとかオールドスクールなエレクトロのビートが入れられるような構造になってる。もともとはキックが入ってたんだけど、それを排除して作り直した曲とかもありますし。最近アンダーワールドの前座をやる機会があって〈4つ打ちのビートを入れなきゃ〉って思ったんですけど、やっぱり前作のほうが簡単にダンス・トラックになるんですよね」

――ダンサブルではないけども、アンビエントやエレクトロニカとは成り立ちが違う音楽でしたね。

「僕はテクノのつもりだったんですけど〈アンビエント〉って言われましたね。それでアンビエントを初めてくらいの感じで聴いてみました(笑)。それまで全然聴いたことがなかったので」

――前作に関しては、ダンサブルなビートを入れずに勝負しようみたいな気持ちがあったわけですか。

「確かにテクノを聴いてる人が欲しいような形のキックは入れてない。それはどうしてですかね……若気の至りでもないですけど(笑)」

――追求したかったことではあったと。

「クラブで鳴る音楽って、すごく盛り上がって、ブレイクして、また盛り上がりが戻ってきて……みたいな体を動かすうえでのフィジカルな流れがあるじゃないですか。その流れを叙情的なサウンドで作りたかったんです。そのためにキックを排するという作り方をしました」

――叙情的だし、エモーショナルな音楽とも言えるんじゃないですか?

「ただ、ファーストにしてもセカンドにしても、人をひとりも描いてないんです。人間ではなくて風景を描いてる……しかも叙情的にという。だから単純にエモーショナルと言えるものではないと思うし、そういう意味では針の穴に糸を通すような場所を表現してるつもりなんですよね」

――なるほど。

「音楽を聴くことで心情が変化する、その変化の度合いだけを与える音楽を作ってるつもりなんです。だから聴き手はそれぞれが違った心情に向かう。そういう何らかの作用を促す音楽」

――レールを敷いて、聴き手みんなをひとつの感情に向かわせる音楽ではないと。

「そうですね。だから、ダンス・ミュージックが体を動かすことに特化した音楽なら、僕の場合は気持ちを動かすことに特化した音楽ということですね。動かすという点では同じで」

――ダンス・ミュージックを牛尾さんなりに解釈したらそうなった、とも言えますよね。

「そうかもしれないですね。まあ単純に、クラブに行っても後ろのほうで飲んでるタイプだからこうなったというのもあるかもしれない。そういう人もいるじゃないですか(笑)」

――ええ。ただクラブにはいるわけですよね(笑)。

「そうです、それはすごい楽しいんです」

――それは牛尾さんの音楽を説明するうえでわかりやすい話かもしれないですね。

「でもセカンドに関しては、もっと自分の部屋に近付いた作品だと思います」

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掲載: 2010年11月03日 18:01

インタヴュー・文/澤田大輔