LONG REVIEW――SISTER JET 『LONELY PLANET BOY』
ワンストロークにすべてを賭ける――それはとてもロマンティックな行為であり、同時に相応の覚悟が必要な挑戦でもある。なぜならそこで発せられる音は、もはや魔法だから。けれど3人は、そうしたロックンロールをひたすらに追い続けてようやくその糸口を掴んだのだなと、“SAY YES”を聴きながら思う。大サビにドラマティックなブレイク・ポイントが装備された、シンガロング必至のエモーショナル・ロック。瞬時に沸き上がる制御不能の昂揚感。無意識のうちにこぼれる涙。そんな魔法がかった現象を聴き手にもたらす作品が、SISTER JETの新作『LONELY PLANET BOY』である。
ファースト・アルバム『三次元ダンスLP』までの3人は、ザ・フーやキンクスを想起させるブリティッシュ・ビートを独自の(ややトリッキーな)ポップ感で再編し、無邪気さでもって鳴らしていた。続く『JETBOY JETGIRL』の背景にあったのも、スウィンギング・ロンドン――暴走気味のモッド・スピリット。だが、その頃からだろうか? 私は彼らの楽曲のなかに、古き良きアメリカの風景を見い出していた。
なぜだろうと考える。それは、いまやライヴの定番曲となった“DJ SONG”などでストレート・エッジなロック・サウンドを提示しはじめていたからかもしれないし、その後の“MR. LONELY”においてガレージ・ロック・リヴァイヴァル的な方向へ振り切ったからかもしれない。単純に、音がドライに、明快になったということもあるだろう。だがそれ以上の要因は、少しずつパーソナルなものへと変化していったワタルSの歌にあるような気がする。
ときには物語性を、あるいは具体性をもってソングライターが口にする言葉は、主人公が向き合っている感情は、突き詰めればどれもいたってシンプルなものだ。寂しさや、そこから派生する哀しみ、葛藤を、彼はとびきりスウィートなメロディーに乗せて歌う。その人間味に満ちた〈ぼやき〉のなかに、私はボブ・ディランやニール・ヤングに近い〈匂い〉を――アメリカの乾いた風を感じた。例えば〈ヒップホップ・ビートをベースに組み立てた〉という“ナミダあふれても”は、音としてはブリット・ポップ的な、言わばオアシスを思わせるスケール感で大らかに展開する楽曲なのだが、私にはこの曲が、SISTER JET流のトーキング・ブルースのように聴こえたのだ。
サウンドがパンキッシュであろうが、メロウであろうが、切実な〈ぼやき〉の奥には土臭いソウルがある。そのソウルを最大限に引き立てる、最高のグルーヴがある。それらが渾然一体となった瑞々しくもふてぶてしいロックンロールが、ここにはある。
その冒頭で、彼らは〈YES〉と力強く肯定する。これがSISER JET版の『Help!』だと言うならば、これほど頼もしいことはないだろう。全国のライヴハウスを飛び回った2010年、現場で得た3人の経験値をまんま投影した12曲を受け取ったいま、ジェッ飛ぶのは彼らじゃない。私たちの番だ。
- 前の記事: INTERVIEW(4)――やっとキックオフ