INTERVIEW(2)――謎のタイミングが効を奏して
謎のタイミングが効を奏して
──で、ドキュメンタリーを作るというのはいつ頃湧いた話なんですか?
川口「これはもう、キングレコードの長谷川プロデューサーが、昔から心のなかであっためてた企画だったらしいんですけど……で、2008年ぐらいに僕と出会って。最初にお会いした頃は映画を撮りましょうなんていう話はしなかったんですけど、僕はブッチャーズとの交流もあるし、長谷川さんからしてみたら〈コイツならやってくれるんじゃないか?〉って思ったんでしょうね(笑)。2009年の暮れに急に呼び出されて、〈ブッチャーズのドキュメントを作ろうと思うんだけど〉って。それを聞いて最初は〈何言ってるんだ、この人は?〉って思いましたよ(笑)」
吉村「ちょうど『NO ALBUM 無題』が出来上がったときぐらいだね」
川口「そう、吉村さんからアルバムが出来たっていうことは聞いていて。でも、そのアルバムの制作風景とか、終わってるから撮れないわけで、長谷川さんがなぜそのタイミングで言い出したのか謎だったんですよ(笑)。でもまあ、僕の一存ではなんにも言えないし、当然メンバーありきのことなんで、メンバーがやるっていうんならやりましょうって。そしたら、年明けに吉村さんから〈やるよ!〉っていう返事がきて」
吉村「いやまあ、やることはやるんだけど、第一声を聞いたときは、アルバムを苦労して作って、作り終えたときに、なんでこのタイミングなんだろうなあって」
川口「ですよね。普通、レコーディングで苦しんでる姿を撮りたいとか、映画的にね、そういうのってあるじゃないですか」
吉村「だから、そこからどういうものを撮ればいいんだ?って。でもまあ、川口くんだし、わかってくれてる人だから、そのへんでは全然OKというか。〈無題〉はね、苦労して作った一枚っていうのが僕のなかであったんですよ。でも、作ったあとの感触っていうのは、モノはいいんだけど、ちょっとバランスがおかしいというか、自分と周りとの温度感がおかしいみたいな感触があって。これ、どうしたらいいんだろうなあ、どうしようもないよなあ……とかって思いながらヘンなズレを感じてたんですよ、良くも悪くも。でも突き進まなきゃいけないんだよなあってときに……」
川口「映画の話が……なんですよね。僕は、吉村さんがそんな苦悩してるとは知らないし、アルバムが出来たとは聞いていても、音源はまだ聴いてなかったんですよ。だから、僕自身も映画の話をいただいたときに何を作ればいいんだと。タイミングもそうだし、解散したバンドではなく現役のバンドだし、いろんな作り方はできるんだけど、なんか、型にもハメたくないっていうのがあったし、どうすりゃいいのかわかんないんだけど……」
吉村「まあ、やってみますかと。でもまあ、そうやってフタを空けた途端に……」
川口「メンバーと居酒屋で揉めてたりするんですよ(笑)」
──序盤で早速出てくるシーンですね。
川口「そうです。まあ、メンバーが衝突している場面は、いままで長い付き合いのなかで出くわしたことがあったんですけど、まあ、ライヴの楽屋とかでは見たことはあっても、契約がどうとかっていう現場に立ち会ったことはなかったので、〈おいおい、なんか始まっちゃってるなあ〉みたいな。始まっていきなり怒ってる吉村さんみたいな(笑)」
吉村「それが映画になるのかなあって(笑)。バンドをこうしていこう、ツアーをこうしようっていう提案をマネージャーといっしょにしてるわけなんだけど、メンバーの体温が追いついてないというか……そういう温度感の違いはあちこちのシーンで繰り広げられてるよね」
川口「そういう時期にたまたまカメラが入ってたっていう。そういう意味では、吉村さんが起こしたマジックだと思うんですよ。結果的にですけど、ブッチャーズがなんとかしようとしている動きと映画が連動できましたよね」
吉村「映画が上映されて、バンドマンがいっぱい観てくれたみたいで。恥ずかしいんだけど、この映画の感性というものに対して〈良かったです!〉とかいろんな感想を聞いて、しかもみんなヒットしてる部分が違うわけ。たとえば、小松の苦労話とか射守矢が言っちゃったこととかに対して、〈射守矢さんスゲえ!〉っていう人と〈それ言っちゃおしまいだよ〉っていう人がいたり、オレが怒ってるのを見て〈小松さんは苦労してるんですね〉っていう感想もあれば、アジカンのゴッチ(ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文)とか〈あの話、オレもよくわかります〉ってオレ側の立場で見てくれたりね」
川口「あのBPMの話(吉村がドラムスのBPMに対して指摘するシーンがある)は、リーダー兼ヴォーカル/ギターしかわからない気持ちなんでしょうね。でも、そういう感想って何も期待してなかったんですよね。映画が完成して、メンバー全員がこれでOKって言ってくれたんですけど、ただ、これがどういうふうに人に伝わるのかあまりわからない、メンバーもわからないし僕もわからなかった。でも、フタを空けてみたらバンドマンがいっぱい観てて、そこはいろんな見方があって……それは思ってもみなかったことなんで、すごくおもしろかったですね」
吉村「なんかね、バンドマンにとってはプチプチっとヒットするところがあるみたいなんですよ」