LONG REVIEW――長編ドキュメンタリー映画「kocorono」
画期的なドキュメンタリーだと言っていいだろう。人間関係の不和など、バンドの内情を赤裸々に描いた作品ということで言えば、決して珍しいものではない。個人的にここ数年で観たもので言えば、ピクシーズ(「Loud Quiet Loud」)やブラー(「No Distance Left To Run」)のもそうだった。しかし日本の、それも誰もが知るヒット曲を持っているわけでもないバンドの約1年の記録にこれだけ注目が集まったのはあきらかに異例だし、生々しいお金の話にまでここまで踏み込んだドキュメンタリーというのも、ほぼ記憶にない。横山健が〈生々し過ぎて辛いが、目をそらせなかった〉とコメントを寄せているように、リアルなバンドの実像がここにある。
ミュージシャンを中心としたブッチャーズを取り巻く人々の証言は本作の見どころのひとつだが、個人的にいちばんしっくりきたのがヒダカトオルの〈怖い人たちなんじゃなくて、シャイな人たちなんだ〉という見解。もちろん音楽に対してはストイックに取り組み、それゆえの殺伐とした空気や吉村の物言いからは〈怖い〉というイメージも受けるが、しかし、いまだにたどたどしいステージでのMCを観ると、吉村も含め、やはりシャイな人たちの集まりなのだと思う。〈あなたはなぜ音楽をやっているのか?〉という問いに対して、〈口には出せないことも、音楽でなら伝えられる〉という模範解答があるが、ブッチャーズほどこの回答が似合うバンドはいない。だからこそ、彼らの音楽は感動を呼ぶのだ。
恐らく北海道であろう大きな空をバックに、つたないフィンガー・ピッキングを披露するラスト・シーンの吉村からは、尽きることのない明確な前進の意志が感じられる。大事なのは言葉でも、音の大きさでもなく、想いの強さである。そう語りかけるような名シーンだと思う。