INTERVIEW(4)――忘れることで救われる
忘れることで救われる
――“息が止まりそうになる”もめちゃくちゃリアルですよね。
工藤「いまの自分の気持ちにいちばん当てはまる曲ですね。不安とか葛藤から目をそむけるんじゃなくて、ちゃんと受け入れる――そうすることで、僕は救われた気がしたんです。その感覚って、中学生のころにSyrup16gを聴いてたときに近いんですよ。武道館も観に行きましたけど、ずっと自分自身と向き合ってというか。僕自身は、誰かを救えるなんて思ってないんです。ただ、同じ気持ちを共有できることはできるんじゃないかなって。“息が止まりそうになる”は、特にそのことを思う曲なんですよね、自分にとって」
――なるほど。“oar”における〈いつか終わりが来るその時まで どうか今を殺さないで ちゃんと感動していて下さい〉というフレーズも印象的でした。まさにこれですよね、このアルバムの本質は。
工藤「〈oar〉はボートのオールのことなんですけど、行き先を決めるのは自分だっていうのを最後に伝えたかったんですよね。音楽を聴いていて〈救われた〉って感じたとしても、それはその人が選び取ったことだ思うんですよね。どういうふうに受け取るかは、聴いてくれる人が決めることだし……そういう意味では、僕らと聴き手の間には一定の距離があると思うんですよね。でも、だからこそいいんじゃないかって。近付きすぎると、逆に伝わりづらいこともあるだろうし」
――『記憶喪失』から感じる〈伝わりやすさ〉って、そこに理由があるのかもしれないですね。リスナーとの距離をきちんと受け入れてるというか。
工藤「アルバムを作ってるときは、もしかしたら伝わりづらいものになるかもしれないなって思ってたんです、実は。いままで以上に自分と向き合ったから、難しくなってるかもしれないって。でも、〈伝わりやすい〉とか〈わかりやすい〉って言われることが多くて。それは意外でもあるし、嬉しいことでもありますね」
――最後になっちゃいましたけど、『記憶喪失』というタイトルを付けたのはどうして?
工藤「〈記憶〉っていうのがひとつのキーワードになってるんですよね、ずっと。以前は過去に失ったモノ、すごく必要だったなって思えるモノに思いを馳せることが多かったんですが、さらに探っていくと、そこにある記憶、感情、心が大事だったんだってことに気付いて。ただ、そういうことって忘れてしまうじゃないですか。それが寂しかったりするんだけど――場合によっては、寂しいって気持ちも忘れてしまったり――いろいろ考えているうちに〈でも、そういうもんだよな〉って思えるようになってきたんですよね」
――忘れることをポジティヴに捉えるようになった?
工藤「うん、ネガティヴなことではないですね。たとえば、誰かに対して〈要求のすべてに応えたい〉と思うじゃないですか。でも、すべてに応えるのはムリですからね、実際は。『記憶喪失』っていう言葉を思い付いたとき、やっぱり救われたような気持ちになったんです。もしかしたら甘えてるのかもしれないけど、そう思わないと生きていけないよなって」
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