インタビュー

LONG REVIEW――Any 『記憶喪失』

 

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即効性やインパクトよりも、じんわりと心に染みてくる〈浸透力〉を持ったバンドへ――昨年12月に初のフル・アルバム『宿り木』をリリースしたAnyは、そんな進化を遂げつつある。

もともと透明感ある歌声と端正なメロディーに評価の高かった彼ら。3ピースの編成ながらカラフルな色彩感を持ったサウンドも、センティメンタルな歌詞の世界観も、当時で平均年齢21歳とは思えないほどの完成度を誇っていたし、片寄明人のプロデュースもハマっていた。しかし、〈端正〉や〈オーソドックス〉などという言葉で語られるそのクォリティーの高さは、同時に日本のギター・ロックの王道を破綻なく選び取る優等生的なセンスの発露でもあったように思う。

だが、この『記憶喪失』では、徐々にAnyならではの個性が(いい意味での)イビツさを持って表れている。“エヴリィ”での〈会いたくてもうダメになりそう/君の中で暴れる生き物に触れるよ/噛みつかれて 汚い本音を浴びせられても〉という一節、“サナギ”での〈膨らんだ桃色の丘を駆ける 真夜中に〉〈イヌになってキス 腕を噛んで舐めてやる〉という露骨に性的なモチーフを匂わせる歌詞を美しいファルセットで歌う箇所には、思わずドキッとする。初期のスピッツに通じる〈ポップスの裏側に隠し持った変態性〉も感じさせる。

アコースティック・ギターのAメロから螺旋を描いて上昇していく“エヴリィ”、カントリー・テイストの“万華鏡”、中期ビートルズっぽいキーボードの響きが印象的な壮大なラストナンバー“oar”など、スロウテンポでじっくりと熱量を上げていく5曲が揃った本作。単なる〈正統派〉ではない、Anyとしての新たなスタートを示す一枚だ。

 

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掲載: 2011年08月31日 18:01

更新: 2011年08月31日 18:40

文/柴 那典