INTERVIEW(4)――願いごとをしなくなった
願いごとをしなくなった
――“賽の河原”は、まだライヴではやってないんですか。
「やってないです。たぶん、発売日までやらないです。聴く人が、CDを開けた時に初めて聴くのが、まっさらでいいかなと思って。1曲ぐらい、まったく知らない曲が入っているっていうのは、個人的に嫌いじゃないので。それにしてはヘヴィーな曲だなと思いますけど(笑)」
――このあと、9月いっぱいはフェスがいくつかあって、10月8日から“霹靂”のリリース・ツアーが始まりますけども。これからツアーに向けて、徐々にテンションを上げていくという感じですか。
「いや、そういう考え方はしてないですね。今日でいいや、というか。今日、石巻から帰ってきたんですけど、もう眠くて(笑)。そりゃそうなんですよ。〈フジロック〉に行って、1日目だけ遊んで、家族が(被災地に)行きたいと言っていたから、(岩手県の)宮古から入ってあの三陸の街を通って南下して。昨日石巻で、灯篭を1万個流すという催しがあって、それのお手伝いに入れてもらって、みんなでやってたんですけど。それも別に、何かのためにやっていたわけではなくて、今日1日あるんだったらフルに使いたいという意味であって。1日生きてれば……そう、だから俺、願いごとをしなくなったんですよ。3月11日から」
――ああ……そうなんですか。
「もともと神社とか行くのは、嫌いじゃないんですよ。そこで〈○○が叶いますように〉とか、その都度考えてたんですけど、最近はただ単に〈今日1日生きてますように〉ということしかなくなってきて。こういうものなんだなと思いましたね。でもわかんないですけどね、夢がなくなっちゃっただけかもしれない(笑)。夢、ないですけどね。もともと」
――なんだか、リリース・インタヴューっぽくなくなっちゃいましたけど、いまのTOSHI-LOWさんのマインドが、かなりわかったような気がします。すごくシンプルに生きようという気持ちがあって、それが歌詞を書く時の迷いのなさとか、音と言葉に反映されてるのかなと。
「シンプルだと思いますよ。自分が抱えていると思っていたものが、どうでもよくなったんですよ。キャリアとか、どう見られてるかみたいなものがあるとしても、何も関係ねえなと思って。シンプルというのは本当にそうで、なければ作るわけだから、それでいいんですよね。いままでは消耗していたんですよ。あると思っているものが、削り取られていくイメージがあったんですけど、いまは、ないと思ってるから。なければ湧いてくるし、活力も出てくるし、意外にシンプルだなと思いますね。すべてを投げ捨ててしまえばよかったんだって」
――TOSHI-LOWさんと同じように、シンプルに生きようという考えになってきてる人が、増えてきてると思うんですよ、3月11日を境に。そういう人がBRAHMANのいまの音に、共鳴するんじゃないかと思います。
「そうなったら、嬉しいですね。シンプルはいいですよ。小難しいことを抱えようとしても、死ぬ時には何も持っていけないことがわかったので。すべてシンプルに考えていくのがいいですよね。いろんな問題、あるじゃないですか。日本のなかで。だけど結局、そんなものがなくても生きていけることがいっぱいあるのに、自分たちが作り出してしまったがゆえに、使い切らなきゃみたいな、すごい無駄な発想のうえにいたんだなって、恥ずかしながら感じるじゃないですか。昨日、被災地の子供たちが冷えたおにぎりを分けて食べてたけど、それがおいしかったって話を聞いてて。そういう経験した子はすごいだろうなと思いますよ、大人になったら。そこから何かまた新しい、強いシンプルなものが生まれていって、いい国というか、また違った風景が何10年後かに見れたらいいなと思ってますね」