LONG REVIEW――delofamilia 『Spaces in Queue』
想起させるのは、ポーティスヘッドやマッシヴ・アタックなどのブリストル勢や近年のチルウェイヴ、もしくはキャロル・キングのような70sアメリカン・ポップス。つまりは現在ヒット・チャートを賑わせているようなJ-Popが孕む〈喧騒〉とは無縁の、とても静謐な音世界が広がっている。ときに大らかで包容力のあるメロディー、ときに晴れやかでカラフルなサウンド、ときに呪術性を感じさせるミニマルなビートを響かせながら、一貫して透明な湖を覗き込むような〈深み〉を感じさせるアルバムだ。
2007年、廣山直人(=ORANGE RANGEのリーダー・NAOTO)によるソロ・プロジェクトとしてスタートしたdelofamilia。当初よりORANGE RANGEの躁的なテンションとは対極にある音楽性を志向していたが、2009年の2作目『eddy』を経てシンガー・ソングライター、Rie fuとのバンド形態をさらに発展させた本作では、そのサウンドはよりオーガニックに、生々しい息遣いを感じさせるべく進化している。Rie fuの熱を抑えた歌声も素晴らしい。
個人的なベスト・トラックは4曲目の“spinning”。沈鬱なアルペジオに下降するベースライン、アナログ・レコードの針のノイズ、呟くようなRie fuの歌声に、鳥肌が立つほどに静かな美が宿る。ラスト“your song”のシューゲイザー的な轟音の〈揺らぎ〉もたまらない。孤独な秋の夜長に、音の一粒一粒やその余韻までをじっくり堪能したい一枚だ。