INTERVIEW(2)――イタい何かがパーンと開けた
イタい何かがパーンと開けた
──その、今後リリースが続いていくであろうセルフ・カヴァー集ですが、今回の『1』はなかでも攻撃的な内容なんじゃないかと思うんですね。パンク~ハードコア的なアレンジの“ギロチン”で始まって、耳触りも全体的にダーティー。かつ、詞世界も凄まじく殺伐としたものが揃っていて……なので、今作で初めてcali≠gariを聴く人にとって入りやすいものかと言うと……。
「そうではないでしょうね」
──はい。ただ、cali≠gariが持っているさまざまな側面のうちの一部分が強烈に表出しているアルバムだと思うんですよね。ある意味でコンセプチュアルと言いますか、ギラギラした狂気を孕んでいる点が一枚で統一されている。そこで今回は、この『1』に収録されている6曲を原曲から紐解くことによって、新しいリスナーの方にもcali≠gariの音楽の一面を知ってもらえればと思いまして。
「なるほど。最近はそうじゃないけれど、以前はおもちゃ箱みたいなアルバムでしたよね。そんなふうにとっ散らかっていたものを似たようなものでまとめてみたら、やっぱりcali≠gariって変なバンドだったんですよね(笑)。このなかでいちばん古い曲は“ギロチン”で、作ったのはまだ23、4歳の頃だったんですけど、当時はどんな音楽でもやりたいっていう意識があったんです。僕がcali≠gariをやりはじめた頃って、化粧をしてればヴィジュアル系、っていう感じにどんどんなってきちゃってたんですよね。でもそうじゃなくて、僕としては、化粧をしているのは基本で、かつ、それぞれの音楽や世界観があってこそのヴィジュアル系なんじゃないの?って。そういうのがだんだん僕のなかで悩みみたいになっちゃって、そこからまあアンチテーゼってわけではないけれど、じゃあ次にデモテープ出すときは〈なんなのこれ?〉って言われるようなものを作ってみようと。そこでこの“ギロチン”とか“嘔吐”を作ったんですけど、それによって、いちばん最初のcali≠gari(第3期、90年代半ば頃。バンドはメンバーチェンジを繰り返しており、現在は第7期)は、どんどん崩壊に向かっていくんですよね。バンド自体がかなり、わけわかんない感じになってきちゃって。僕とかチェックのシャツ着てライヴやってましたからね(笑)。メイクは薄いし、チェックのシャツだし、メガネかけてるしで、客なんかつかないですよ。それで〈ギロチンギロチン!!!〉って言ってるんだから、全然意味がわからない(笑)」
──それは……なぜそのようなことに(笑)。
「小僧だったんですよね(笑)。ヴィジュアル系のなかにいながらトッポくいたかったっていうか、〈うちらは他と違う〉って思われたくて必死だったんですよ、あの頃は。だからバカみたいに音楽聴いたし、バカみたいにいろんな曲作ってみたし。でもあの頃の、そういうイタい感じの自分がいたからこそ、その後のcali≠gariに繋がっていったっていうのはあるんですよね。ガムシャラで、答えなんか見つからないままにこんな“ギロチン”だとか“嘔吐”だとか変な曲ばかり作っていたのが、最終的に収まるところに収まっていくんです。石井さんの前のヴォーカルが入ってから、〈この人のキャラを立てることで、このバンドって上手くいくんじゃないか〉って思ったら、案の定上手くいったっていう」
──その方向性に“ギロチン”は合ってた。
「そうですね。まあ“ギロチン”にしてもそうだし、今回のに入ってる“37564。”だとか“サイレン”だとか。その頃……『第3実験室』(98年)、『第4実験室』(98年)、『第5実験室』(99年)っていうのは、綺麗なものと汚いものを明確に分けた作りをしていたんですよ。メチャメチャでありながらも……曲ごとに全然違うけど、世界観はいっしょなんだよっていうのを見せる? ……言葉にするのが難しいですね、これ。自分の頭のなかにははっきりあるんだけれど。ただ、その一本筋が通ってるものがなかったらこのバンドは売れなかったと思いますね」
──その一本通っていた筋ってなんだったんでしょう?
「その正体はちょっと僕もわからないんですけど、きっと、いまもやってることなんですよね。人もバラバラ、曲もバラバラ、でもレヴューとかでは〈全部バラバラなのに統一感を感じる〉みたいなことを書かれたり。ただね、“嘔吐”と“ギロチン”、作ったのはどっちが先かは覚えてないんですけど、そこから何かがパーンと開けたんです。イタい何かがね(笑)。その頃に初めていまのcali≠gariの基本フォーマットみたいなものが、なんとなくやりたい方向性みたいなものが見えたというか」
人の悪意ってすごい
石井秀仁
──先程の青さんの言葉を借りれば、『1』の収録曲は汚いほうに振り切った楽曲たち、ということでしょうか。歌っている内容も凄まじいですし。
「そうですよね。よくぞ若造のときにこんなの書いてたなあと(笑)。でも“クソバカゴミゲロ”(原曲は2009年のシングル『9 スクールゾーン編』に収録の“PPPH”で、今回は歌詞も一新)なんかは、久しぶりに若造の頃に書いてた気持ちに戻りつつ、もっと狡猾な感じで書いたんですよね。歌詞の通りに取られると困る曲だったりします。〈やりたい〉もどういう意味なのか……かと言って難しいことは言ってないですよ? ちょうどその頃、ガーッて病んでるものばっかり観てて。久々に園子温の『冷たい熱帯魚』を観て、モチーフをちょっと詳しく知りたいなと思ってルポライターが書いた愛犬家連続殺人事件の手記とか読んだら、ホントにエグくて(苦笑)。あとは『消された家族』っていう、北九州のほうの家族がまるっきり消されてしまったものとか……もう、人の悪意ってホントすげえんだなと思って。具合が悪くなってきてしまって、その具合が悪くなった感じを歌詞にブチ込んでみました(笑)。〈たいした理由は別にない〉っていうところが怖いですよね。女子高校生コンクリート殺人事件とかもそうだし、このあいだの尼崎の事件もそうだし、キッツいなって。僕ね、歌詞書くときって、実体験だったり、人から聞いた話だったり、どっちかっていうと比較的リアルなことから何かを感じて自分なりの言葉にするっていうのが好きなんですよ。だからエグい歌詞は、本を読んで映画を観て得た情報の、根底に走ってる一本の線みたいなもの――真っ黒い糸を探り当てて、その探り当てたものを歌詞にするっていう。シンプルだけど、不快で深い(笑)」
──〈たいした理由は別にない〉というフレーズは、よく考えると本当に不気味で。意味もなくとんでもないことが起きていくという。
「書いてて、カミュの『異邦人』とか思い出しちゃいましたもん。あれ、死んでる人に銃弾撃ち込むじゃないですか。で、〈なんで殺したの?〉〈太陽が眩しかったから〉って」
──そういう怖さ、エグさを伴った世界観は、今作に収録の楽曲の統一したところかも。
「だってこれ、全部理由があるんですよ。“ギロチン”の〈あんな終わり方だけはしたくない〉っていうのは……何かで見たんですよね。あ、鮫だ。女の人が生きながら鮫に食べられていく心象が事細かに書き連ねてある狂った小説があって(笑)、それを読んだときに、〈こんな終わり方だけはしたくないなあ〉って。僕のなかでは相当リアルだったんですよ。あとは、綾辻行人さんの『殺人鬼』っていう小説があるんですけれど」
──それは読んでます。あまりのスプラッターぶりに貧血を起こしたというトラウマがあります(苦笑)。
「あれが最たるものなんですよ。あれって、殺される側の心境がものすごく事細かに書かれてるじゃないですか。〈I〉を読んだときは丸っきり眠れなくなったし、〈II〉は読んで肉が食えなくなったどころか、水も飲めなくなっちゃったっていう。そういうのもあって、〈あんな終わり方だけはしたくない〉って書いたの思い出しました。〈あんな終わり方だけはしたくない、あんな終わり方だけはしたくない……〉っていう言葉にものすごいパワーがあったから、パワーがある言葉はもう何回も言わなきゃダメだと」
──原曲の最後のほうには、呻き声や絶叫が乱れ飛ぶマーチ調の部分もありますね。
「あの頃はちょうど(バンドのキャッチフレーズが)〈奇形メルヘン音楽隊〉だったので、まあちょっとメルヘンチックですよね」
――メルヘンチック……と言っていいのかは疑問ですが(笑)。
「死にたくないけど無理矢理断頭台に連れて行かれていくっていうね。死刑囚の手記みたいなのっていい話ばっかりで、悪い話は残ってないんですよ。でもね、わかんないけど、みんな絶対みっともなく生にしがみ付くような気がするんですよね。僕がもし死刑になったら最後の最後まで泣き叫ぶと思うし。生きたいから(笑)」
──ああ、あのマーチの部分は断頭台まで連れて行かれる様子が音になってるんですね。
「でもそこは今回、省きました。もう要らないと思って。死ぬんだよ、って」
──『1』のヴァージョンは、尺もほぼ半分のシンプルなハードコア・パンクというか。でもそのぶん、ギターの狂ったフレーズが際立ってますね。
「それはがんばって狂って弾いてたからだと思いますよ。白石さん(エンジニアの白石元久)といっしょに頭振り乱しながら〈うわあああああーーー!〉って。もう最後はメチャメチャでしたらから(笑)。最後の一言〈ギロチンが落ちる〉っていう直前のところとか、もう僕、〈右手がーーーー! 死ぬーーーー!! うおおおおおおーーーー!!!〉って叫んでました(笑)。白石さんも〈青さん、良い! そのまま◎×△□~~~(もう言葉になってない)!〉って奇声を上げてて。スタジオのレコーディングなのに、二人でゼーハーゼーハーしてましたね(笑)」
──失礼ながら、客観的に想像するとなかなかにシュールというか、馬鹿馬鹿しいというか(笑)。楽しい大人たちです。
「でも本気ですよ(笑)」
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