インタビュー

INTERVIEW(3)――どんな曲にも知性を潜ませる



どんな曲にも知性を潜ませる



武井誠
武井誠



──そこは疑ってないですが(笑)。ちなみに、青さんはハードコアもお好きなんですか?

「僕、大好きなんですよ。うちのCD棚、G.B.Hとかデッド・ケネディーズ、ディスチャージとかいっぱいありますよ。アメリカの何だかわからないハードコア・バンドが200曲ぐらい入った、5枚組で1000円のCDとか買って聴いたりしてました(笑)」

──ああ、そういうコンピが意外と良かったりするんですよね。

「大好き(笑)。なんか、ハードコアには知性を感じるんです。そういう意味では、ハードコアって文科系だと思うんですよね。怖いけど」

──ああ、おっしゃることはわかります。そういう志向って、cali≠gariの今作のなかにも出ているのでは?

「グチャグチャだけど、知性みたいなものは出したいなっていう。〈どこに知性が?〉って言われたらちょっと困っちゃうんだけれど、僕的には、毎回どんな曲にも知性は入れてるつもりでいるんですよ。“クソバカゴミゲロ”でもね(笑)」

──そこが先程話に出た〈一本の筋〉なのかもしれないですね……“クソバカゴミゲロ”は、先ほど〈狡猾〉っておっしゃってましたけど、知能犯的な響きがあると思います。

「これ、僕としては相当好きな曲なんですよ。石井さんのロウ・ヴォイスで、すごい悪意のこもった〈たいした理由は別にない〉っていうフレーズが病的にループする感じがね」

──声自体に悪意がある。

「最後、僕と〈クソバカゴミゲロ〉を掛け合いするところとか、すんごい人を小馬鹿にしたように言ってません?」

──言ってますね。

「〈クソ、バーカ〉って。これはヘッドフォンで聴いたらヤられるだろうなって。あとは響きだったりね。“クソバカゴミゲロ”って、組み合わせが何パターンもあったんですけど、すべてのパターンを自分で言ってみて、いちばん響きっていうか、語呂が良かったのがこれなんですね。やっぱり、クソがいちばん頭にくるのが……イイ」



悪意さえ茶化せれば



桜井青
桜井青

──イイ、って(笑)。あの、いま〈悪意〉って出てきましたけど、今作に収録されている曲は歌っている内容が悪意や病んでいる感覚を多く含んでいて、それを聴覚的に増長するアレンジが施されているとも感じられますね。

「ダイレクトな悪意は僕だけ感じてれば良くて、それを自分のフィルターを通して曲にするときには、悪意さえ茶化せればいいんですよね」

──ああ、そこがcali≠gariっぽさかもしれない。

「ちなみにこれ、全曲悪意のエピソード付きですから。“失禁”は、“東京ロゼヲモンド倶楽部”(2002年作『第7実験室』収録)を作ったときに、当時のレーベルから〈万引きした……(都合により中略)……警察官〉なんて歌詞は掲載できない〉って言われて、〈なんで? もっとひどいこと書いてる人いっぱいいるじゃん〉みたいな。まあ“東京ロゼヲモンド倶楽部”の歌詞は全体的にひどいですけど、もう頭にきて、突発的にみんなに〈もう1曲増やしたいんですけど、付き合ってください〉って言って、〈こんな感じ〉って伝えてスタジオ一発録りで終了。歌詞の〈頭の堅い老人たち〉が、〈頭の堅い○○○○の役員たち〉です」

──衝動そのものですね(笑)。

「あと“-187-”は、当時secっていうブランドがあったんですけれど、そこの黒いブルゾンを渋谷のナノ・ユニバースっていうお店に朝、7時か8時くらいから並んで買いに行ったんですよ。そしたら自分の目の前、2人か3人ぐらい前のところに列とは関係ない人が混じって、〈すいません、もう1点欲しいんですけど〉みたいな感じで持ってっちゃって。それで自分のぶんがなくなっちゃったの」

──それは悔しい。

「ちょっと待って、って感じじゃないですか。『第6実験室 予告版』(2001年)には“ドラマ「-187-」”っていうのが入ってて、オナン(・スペルマーメイド。cali≠gariのライヴや作品中のドラマに頻繁に出演するドラァグクイーン)と若草色のシミーズを取り合うんですけど、つまりあれってそういうことなんですよね。それで“-187-”は、目の前でブルゾンを取られていってしまって、〈ぐわあああああーーーーーー!〉って、もうホントに本能だけで書いた曲。帰ってすぐ書いたもん。頭のなかで盛大にオーケストラが鳴っちゃってて」

──怒りのあまりにオペラ調でひたすら悪態をつく、っていうのも変わってますね(笑)。今回はアーリー・パンク風ですが。

「それは盛大でしたね。あと“37564。”は……これは何で作ったんだっけな? 研次郎君がプライマスみたいなベースラインを弾いて、それおもしろいから忘れないで、って。たぶんね、これは曲が先なんですよ。詞の根本にあるのは、『八つ墓村』っていうか、津山事件ですね。〈津山三十人殺し〉。“サイレン”は、それよりも何よりも、ライヴにおけるギターのパフォーマンスを考えて作った曲だったので。いかにギターを弾かないで1曲保たせるかっていう」

──それはなぜ?

「弾かなかったら両腕でわーって動けるでしょ? それだけです」

――今回、“サイレン”はだいぶテンポが落ちてますね。

「ホントは最初からこのスピードでやりたかったんですけどね。今回は徹底的に重くしてますね」

――先日の野音のエンディング曲ですが、あれこそ、そこに〈世界〉が出来てました。視覚込みでいまだに鮮明に記憶に残ってます。混沌の極みでした。

「以前は世界観最優先みたいな曲がいっぱいありましたからね。“サイレン”はその最たるものですよね。曲に演劇性みたいなものを持たせられる、みたいな。作ったばかりの頃も、拡声器で歌ったりとかそういうインパクトは強かったんですけれど、この歳になってこの曲をやると、ようやく説得力みたいなものが出てきて。これもまた悪意みたいな。野音のときで言えば、日比谷のど真ん中で、ステージ真っ赤にしてサイレンが鳴りだすなんて。あのサイレンの量と、あのスモークと、あの赤い照明の量で、完全にこっちも〈世界〉に入り込めますよね。あの空間では、誰もがその非日常のなかに組み込まれる。むしろ、あの場では非日常に入り込んでしまわないと、日常を保てないというか。そんなふうに、お客に陶酔を強いる曲ってなかなかないと思うんですよね」


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2013年07月03日 18:01

更新: 2013年07月03日 18:01

インタヴュー・文/土田真弓