インタビュー

INTERVIEW(3)――ヌーヴェルヴァーグと「アルマゲドン」



ヌーヴェルヴァーグと「アルマゲドン」



桜井青
桜井青



――ではその前段階の、ベーシックなところを作る時点ではどうなんでしょう?

「俺はね、コード進行とかメロディーとかもそうですけど、そういうのって限りがあるものだと思ってるんですよ。限りがないっていう人ほどおんなじような曲作るじゃないですか。俺はまったくそう思ってなくて、似たような新曲作るんだったら、こういうほうがおもしろいなっていう意識でやってますね。ここまで変えてやるっていうのはあんまりないと思うし。どっちかっていうとあんまりやりたがらない、方法論的には。単純に、いい感じで録り直すっていうのはありますけど……そもそも、こういうリリースがなかったとしても、昔の曲をライヴでそのままやるのは嫌なんですよ。俺の曲でそのままやってるのってほぼないんですよね。“まほらば憂愁(ブルーズ)”っていうやつと、あと“わずらい”ぐらいで。別に昔のヴァージョンが納得いってないっていうことではないんですけど、10年以上昔の曲をいまやるのに、10年前の形に自分が合わせることがおかしいじゃないですか。それよりは、曲をいまの自分のスキルに引っ張ってきたほうがよっぽどいいと思うんですよね。で、それは絶対メンバーみんながそう思ってると思うんで、そういう作業を常々やっていきたいんですけど、他にもやることあるし、なかなか全曲はっていうのは難しいので。もちろん昔のアレンジがしょうもないから変えたいっていうのもあるけど、そうじゃないのもあるんですよね。あえて変える必要もないんだけど、いまのヴァージョンにしたほうが絶対いいからっていうところで。だから同じ曲でも年々更新されていったほうがいいと思うし、ここで録ったやつもまた、何年か後にまだcali≠gariをやってれば、どんどんまた変わってくかもしれないし、っていう感じですかね」

――今回は、シーケンスとシンセが多く導入されたせいか、全体的には原曲と比べて色鮮やかで、歌っていることはやはり独特でいらっしゃるにも関わらずどこかロマンティックといいますか……なぜか切なさが増しているような印象で。

「この当時って、ちょっと変わったコードばっかり使ってたんですよね。さっきの話に戻りますけど、自分たちの身の回りにいるような人たちが押さえないようなコードっていうか、そういう響きのコードを使って昔は作ってましたね。『2』のなかの曲は、そういう曲が多いです。最近は中坊でも押さえられる感じのコード進行で……そんな話を前にしましたよね? もう5度とかのパワー・コードみたいなのばっかりで、7thとか9thのテンションみたいなところは、ヴォーカルラインとかシンセのラインでつけていく、みたいなね。最近はそういうのが結構多いんです」

――そうすると、原曲としては、いまともっともかけ離れていた頃の楽曲なんですね。

「うん、そうですね。特に“その行方 徒に想う…”と“かじか”と“ダ・ダン・ディ・ダン・ダン”は強烈だと思いますね。まあ“ギャラクシー”もそうだけど。“虜ローラー”はもともと打ち込みだから、コードは3つぐらいしかないような感じで……」



村井研次郎
村井研次郎



――歌詞もこうやって振り返ると、難解な現在の片鱗もありつつ、この時期はまだなんとなくわかりやすいといいますか。

「このなかでいちばん古い曲は“ギャラクシー”なんですけど、これは相当何言ってるかわかると思うんですね。これって、俺がcali≠gariに入って2曲目ぐらいの曲なんで。最初に“近代的コスメ唱歌”を作ってその次がこれぐらいだったんですけど、俺ね、この頃は特に、ヌーヴェルヴァーグっていうか、ああいうのすごい好きだったんですよ」

――ヌーヴェルヴァーグというと、ゴダールとか? ちょっとカットアップ的な。

「ゴダールとかよりは、レオス・カラックスとかすごい好きだったんですよ。あと(フェデリコ・)フェリーニとかも好きで。その頃はまだ若いから、そういうものにハマるとドップリいくんですよね。フランス映画の前はノイズ・ミュージックにハマってたんですけど(笑)。ホワイトハウスとかそういうの。もう行っちゃいけない世界ですよ。もっとわかりやすい、インダストリアルみたいなノイズじゃなくて、現代音楽みたいなのとかね」

――ハーシュ・ノイズのようなものですよね。

「そうそう。それで若いから、もう地の底まで掘り尽くさないと気が済まないみたいなところがあって。で、俺、現代音楽とかクラシックとかの知識は全然ないですけど、カール・ハインツ・シュトックハウゼンとかジョン・ケージとか、本気で聴いてましたからね。まあ電子音楽だけだけど、ミュージック・コンクレートみたいなやつですよね。そこからのノイズ・ミュージックみたいな、そういう危険なハマり方をする時期があるじゃないですか、若い頃って。それでさっきのフランス映画の話に戻りますけど、そういう抽象的な映像のまどろっこしい感じ……答えがないような、ああいう雰囲気の歌詞を書きたいなって思ったんですね、たぶん。起承転結とかではなくて。“その行方 徒に想う…”とかはそうですね。“かじか”はまたちょっと、そういうのとは全然違って浪人の歌なんですけど(笑)」

――なぜ急に浪人の歌を(笑)。

「理由はないですよね。俺にとって、浪人の歌はラヴソングとか書くのといっしょですよ。まあ、ラヴソングを書いたことはないけど。ギターを弾いて曲を作ってて、これはなんか……刀で闘ってるみたいな、そういう曲だなと思って。頭がおかしいですよね、なんかね」

――いろいろかぶれてる時期だから。

「そうなんじゃないですかね~。ヌーヴェルヴァーグみたいなものもそうだし、実験映像的な、デレク・ジャーマンとかもそうですけど、そういうものがすべてっていうかね、そういうふうになってしまう時期ってありますよね。いまはもう、昨日だか一昨日だかTVでやってた〈アルマゲドン〉観て号泣しますからね(笑)。そういう感性のバランス感覚なんだと思うんですよ。いまは大人になったから、どっちもアリで、どっちにも行けるっていうか。若い頃って、何かにハマると、それ一辺倒になりますからね」


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掲載: 2013年11月06日 18:01

更新: 2013年11月06日 18:01

インタヴュー・文/土田真弓