On-Uのアルバム・アーティスト第1弾にして、伝説のグループがまさかの新作を発表!
ニュー・エイジ・ステッパーズ(以下:NAS)が28年ぶりに戻ってきた! スリッツのアリ・アップとエイドリアン・シャーウッド の交友から生まれたこのプロジェクトは、ポップ・グループやクリエイション・レベルなどのメンバーも加わって、当時はどこに もなかった、パンクとレゲエ/ダブが融合した世界を作り上げ、衝撃を与えた。そんなNASの誕生についてエイドリアンが語って くれた。
「アリの家でくつろいでいて、俺がジュニア・バイルズ“Fade Away”を流したんだ。彼女はまだ聴いたことがなかったからね。 〈これ、俺がいままででいちばん気に入っているトラックのひとつなんだ〉って言ったら、彼女も気に入ってくれて。その次にビ ム・シャーマン“Love Forever”を流したら、〈カヴァーをやろう!〉ってことになったんだ」。
こうしてよくある友人同士のノリから始まったプロジェクトはどんどん発展し、81年には“Fade Away”をオープニング曲とした 初作『New Age Steppers』を発表する。まだまだパンクの余震が続く時代に未来を予見させる音だったが、アリ自身が子育て中だ ったこともあって、3作目『Foundation Steppers』(83年)を最後に活動は封印された。
しかしその後、伝説と人気は高まる一方で、スリッツの再編成などもきっかけとなり、ふたたびアリとエイドリアンで6〜7年前か ら音作りが行われはじめる。その勢いがついたのは2009年のことだった。
「アリがコンタクトをとってきて〈アルバムを仕上げたいの。あと、私、乳ガンなのよ〉と言ってきたんだ。彼女は〈全然大丈夫 だけどね〉と言ってて、で、〈ジャマイカに来てここでいっしょに作業するのはどう?〉と提案してきたから、俺は決心して彼女 の家に行き、そこでさらにレコーディングを進めたんだ。その翌年、彼女は亡くなってしまったから、俺が2〜3曲最後の仕上げを したんだけど、その作業が終わって聴いたら、改めてすごく良いアルバムだと感じたよ」。
そう、アリは2010年10月20日に亡くなったので、皮肉なことにこれが遺作となってしまった。〈どこかで自身の運命を感づいてい たのでは?〉と尋ねると「それはどうだろうね。ただ、ジャマイカに行ったとき、彼女はとにかく熱心に作業を続けたがっていた 。病気の重さは知っていたかもしれないけど、とりあえず、死ぬってことは信じてなかったと思うよ」との答え。
手術を拒否し、音楽に立ち向かうというのは、彼女の生き方からするととても自然であった気がする。こうして出来上がったアル バムは、プロジェクトが生まれたときに流れていた曲にちなんで『Love Forever』と名付けられた。
アフリカの大地に戻っていくかのような冒頭曲に始まり、レゲエ・テイストの強いものもあれば、激しく現実に斬りかかるパンキ ッシュなナンバー、さらにみずからの運命を悟りきったような人類愛を讃えた透明感溢れる曲まで、どれも深く胸に沁み込んでく る。
ついに伝説が息を吹き返したと思ったら、その魂は手の届かないところに飛んで行ってしまったが、そのあまりにドラマティック な物語に相応しく、アルバムに残された音は永遠の響きをリアルに伝えてくれている。
▼関連盤を紹介。
左から、ニュー・エイジ・ステッパーズの80年作『New Age Steppers』、同81年作『Action Battlefield』、同83年作 『Foundation Steppers』(すべてOn-U)、スリッツの2009年作『Trapped Animal』(Narnack)