10代の頃からジャマイカン・コミュニティーと交流を持ち、レーベルも始動させるなどレゲエ・ミュージックに情熱を注いできた エイドリアン・シャーウッド。その後、エンジニアリング/ミキシングで天性の才を発揮し、UKダブ界のパイオニアと言われるま でになったが、そんな現実とは相反し、彼に対してレゲエ/ダブに一途なイメージはとても希薄だ。
というのも、デペッシュ・モードやプライマル・スクリーム、シニード・オコナー、キュアー、フォールなどの作品でプロデュー ス/リミックスを担当し、80年代以降のUK音楽シーン全体にレゲエ/ダブのDNAを注ぎ込んだ第一人者として、多大な影響をもた らしたという印象がまずは強いからだろう。
またこれと並行して、インダストリアル/ボディー・ミュージック系アーティストとの蜜月関係を築き上げた点もエイドリアンな らではの選択だ。KMFDM、ミニストリー、キャバレー・ヴォルテール、ナイン・インチ・ネイルズ、スキニー・パピーといった、 その筋のファンならば泣いて喜びそうな錚々たる面々の作品で、喜んで腕を奮っているのは彼ぐらいのものだろう。
これら雑食(というより奇特?)な嗜好性は、当然エイドリアン自身の作品にもフィードバックされており、ダグ・ウィンビッシ ュ、スキップ・マクドナルド、キース・ルブランと結成したタックヘッドでは重金属的な音響を鳴らしてみたり、ピーター・ガブ リエル主宰のリアル・ワールドから発表した2枚のソロ・アルバム『Never Trust A Hippy』『Becoming A Cliche』では、パンク のテイストに加え、オリエンタルな要素まで取り込んだ音楽性へと飛躍。あくまでも根底にはダブが横たわっているが、その姿は やはり異様である。そんなエイドリアンが2012年早々に新作をリリースするとのことで、果たしてどんな作品になっているのか、 いまから楽しみだ。
▼関連盤を紹介。
左から、デペッシュ・モードのリミックス集『Remixes 81-04』(Mute)、プライマル・スクリームの2000年作『XTRMNTR』 (Creation/Epic)、シニード・オコナーの2000年作『Faith And Courage』(Atlantic)、KMFDMの編集盤『Extra Volume 1』( Metropolis/Ryko)、ナイン・インチ・ネイルズの89年作『Pretty Hate Machine』(TVT/Interscope)、エイドリアン・シャー ウッドの2003年作『Never Trust A Hippy』、同2006年作『Becoming A Cliche』(共にReal World)