LONG REVIEW――L.E.D. 『elementum』
活動歴の長いバンドだが、彼らのパフォーマンスを初めて目にしたのはごく最近だ。昨年11月に所属レーベルのコンピ盤『World Penguin’s Carnival 2010』のリリース・パーティーで、会場は六本木Super Delux。もしかしたら、インタヴュー・ページで使用させてもらったライヴ写真が、そのときのものかもしれない。
彼ら=L.E.D.とは、佐藤元彦(ベース)、オータコージ(ドラムス)、加藤雄一郎(サックス)、横山裕章(キーボード)、塩川剛志(ギター)、Kakuei(パーカッション/スティールパン)、RYUDAI(パーカッション)から成る手練の7人衆である。ジャズやハウス~テクノを下敷きにしながらも、プリミティヴな生命力を宿したリズム。エレクトロニカ風の繊細な音色をふわりと浮かべるシンセ/スティールパン。時にはオーガニックに揺らぎ、時には急流のようなスピード感を迸らせるギター。それらが混然一体となったバンド・サウンドのなかで、エモーショナルに響き渡るサックス――いわゆるポスト・ロック的な手法でマッシヴに繰り出されるダンサブルなグルーヴと、壁面いっぱいに投影されたカラフルな色彩に取り巻かれ、私はそのライヴにおいて、簡単に言えば〈飛ぶ〉という体験をしたのだった。眼下の景色を識別できるほどの高度で低空飛行しながら、次々と視界に飛び込んでくる遠大な風景を眺めているような――そんなイメージのなかに、私はいた。
それが、(PVなどは存在するものの)音だけで表現された場合はどうなるのか――? 私はやはり、刺激され続けるイマジネーションのなかにいた。彼らのセカンド・アルバム『elementum』を聴いてつくづく感銘を受けるのは、とんでもない映像喚起力を誇る楽曲はもちろんのこと、その〈喚起された映像〉をより立体的に演出するミックスの素晴らしさである。原田郁子をフィーチャーした先行シングル“I’ll”をはじめ、左右の音の散らし方、移動のさせ方によって想像上の視界をパノラマ化し、さらには二次元から三次元へと広げていく。
加えて彼らは、風景のみではなく、その風景をまのあたりにしている人――その人物の心の震えまでも、音のなかに封じ込めているように思う。“aqua”“terra”といった、それ自体は感情を持たない不定形の物質や天体を描いた音のなかに、なぜだかピンポイントで刺さる、もしくは抑えがたく込み上げてくるエモーションが存在するのは、その〈風景〉のなかに〈人〉がいるからだ。そして、その〈人〉とは、演奏している彼ら自身であると同時に、聴き手自身でもある。
本作には、ライヴで言うならVJにあたるフォトブックが付属していて、音像と想像力を結び付ける手助けをしてくれる。ただ、私個人としては、まずは音だけを楽しむことをオススメしたい。そうすれば恐らく、あなただけの最高に美しい情景に触れることができるだろう。