インタビュー

0.8秒と衝撃。 『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』

 

0.8秒と衝撃。_特集カバー

 

[ interview ]

多様すぎる音楽的要素を知能犯的に忍ばせた初作『Zoo&LENNON』で話題を集めた注目の男女デュオ、0.8秒と衝撃。が、セカンド・アルバム『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』を完成させた。ダークなポスト・パンク・サウンドやブリット・ポップ風の美しいミドル・チューンで構成された前作から一転、インダストリアルやアート・パンクをはじめとしたボディー・ミュージックに着想を得て制作されたという本作は、過激に跳ね上がるリズムが聴き手の昂揚感を問答無用で引きずり出す、ビート・オリエンテッドなロック・アルバムだ。

昨年発表されたEP『エスノファンキードストエフスキーカムカムクラブEP』、先行シングルとなった“「町蔵・町子・破壊」”と、本作に向けて徐々にエキセントリックかつアヴァンギャルドな個性を剥き出しにしてきた2人。その奥深い素顔とは、一体……?

 

パンクって優しいんだな

 

――先日、ライヴを拝見しまして。

塔山忠臣(唄とソングライティング)「ありがとうございます」

――いえいえ。あの、サウンドもPVも過激ですし、メンバーであるお二人自体にもそこはかとなく危険な空気を感じていたので、その偵察の意味もあったんですが……実際観てみたら、なんだか人の良さが滲み出ておりまして。

J.M.(唄とモデル)「どこに出てたんですか?」

――MCは事前にものすごく考えてきたんだろうな、とか。途中の段階で、すでにオチなさそうな気配が濃厚でしたので、心中でエールを送っておりました。

J.M.「アハハハハハ! 努力的な意味で(笑)」

塔山「それは大正解ですね。終わってから、自分で自分に〈うまく言えた?〉って問いかけましたからね。最後ちょっとね、ミスしたんですよね。ホントはヴォーカル・エフェクトで落とす予定だったんですけど、もうテンパっちゃって……テンパっちゃった(笑)」

――(笑)可愛らしく言い直されても。新作『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』と絡めてパフォーマンス自体にも思うところはあったんですけど、今回は初めてbounceに登場していただくということで、まずは結成のときのお話から伺えれば。塔山さんは、大阪から東京に来られたんですよね?

塔山「はい。そうです」

――それまでは、それほど音楽を聴いてはいらっしゃらなかったそうですが。

塔山「聴いてはいないですねえ。洋楽に至っては、もう聴いたこともない感じで。大阪時代の後半でやっとブルーハーツ――日本のパンクっぽいのを、人に薦められて聴いた感じですよね。それまでは、チャートに入るようなJ-Popすらもほとんど知らないぐらいで。社会に出て急に自分の生活状況が悪くなってくるとストレスが溜まってきて、なんか、そういうときって助けてくれる人を探すじゃないですか。それがたぶんブルーハーツだったんですよ」

――どういうところで?

塔山「いろんなところを拾ってくれるじゃないですか。格好良いことばっかりじゃなくて、耳に痛いようなこともちゃんと言葉で表現してくれるから……例えば音楽を聴くのって、楽しいときばっかりでもないじゃないですか。ブルーハーツはそういうとき――ちょっと考え込んでたり、迷ってたり、傷ついているようなときもちゃんと(聴き手を)拾い上げて、別のところへ連れてってくれるような感じが温かいなあと思って。で、彼らはよく、歌のなかでもパンク・ロックだなんだ、って言うじゃないですか。だから〈ああ、パンクってけっこう優しい感じなんだな〉と思って。その頃は、音楽的に聴き出したっていうよりも、歌詞ですよね。歌詞ばっかり読んで、こんな優しいこと言ってくれるんだって、癒されてた感じはありましたね」

 

決まりごとがない感じがいい

 

――それが大阪時代?

塔山「大阪から東京へ来るときですよね。それで僕、音楽知らないからそればっかり聴いてたんです。ブルーハーツのファースト『THE BLUE HEARTS』(87年)なんですけど。やっぱりね、ヒロトが好きなんです。それでこっちに来て、友達に〈ヒロトが好きだ、好きだ〉って言ってたら、〈いいもん見せてあげるよ〉って言われて、新宿の紀伊国屋書店に連れていかれたんですよ。そこでセックス・ピストルズの写真集を見せられて、〈ヒロトが影響を受けた人もおるんだよ〉って知ったかみたいなのをされて、それでちょっと、興味を持ったんですよね。自分が好きなヒロトですら憧れてたような人がいたんだ、と思って。で、それからですよね。ピストルズから洋楽聴き出すっていうか。ピストルズを買いたいがためにタワーレコードを知って、通い詰めてAからZまで買いまくって、短い期間で聴きまくりましたよね。本でも、たまにパンク特集とかやるじゃないですか。それで〈パンクからこういうふうに派生していったよ〉っていう歴史も学んで。そういうことにばっかり時間をかけてましたね、ホント」

――それって何年前ですか?

塔山「4年……5年ぐらい前ですね」

――歌詞から入って、だんだん音にも興味を持っていったわけですね。

塔山「そうですね。ブルーハーツからピストルズにいったときに、薦めてくれる人がいる一方で、〈あんなの音楽じゃないよ〉っていう人もいたんですよ。天邪鬼なんで、そう言われると逆に興味持っちゃって。一体、どれぐらいエグいのか……なんか、怖いもの見たさみたいなのもあるんですよ。あと自分がどれぐらい、そういう怖い音楽のイキ切り度があるのかなと思って。〈ここからはダメなんだな〉っていう限界を確認しかったんです。それでピストルズを聴いたときに、なんか、自分的にはすごいポップに感じたんですよね、音が。エナジーですね。アタックの強い感じが、他の音楽とは違うかな、って。日本の音楽って、それはそれでいいことなんですけど、歌が重視されてるじゃないですか。でも海外だと、〈これ、歌の邪魔してんじゃねえかよ〉っていうぐらいギターが出てたりするものとかがあって、それが逆にすごく格好良いなと。なんかね、リミッターのない感じが……」

――アンバランスな、バランス感?

塔山「うんうんうん、そうですね。それがすごく、いいなあと思いましたね。なんか、決まりごとがない感じがしたんですよね」

――ちなみに、いまフェイヴァリットを挙げるとしたら?

塔山「そうですね……新しい人だと、ベタですけどディアハンターとか好きですね。でも昔のも含めていまいちばんハマってるのは、あの……ミュート・レコードってあるじゃないですか。あそこのアーティストがすごい好きで。最近だとキャバレー・ヴォルテールだとか、DAFもそうですよね。あと、こないだ買ったのなんだっけな? えーと……そのへんの、ダンス・ミュージックとも、ロックともまた違う感じのビート・ミュージックがすごい好きですよね。聴いてると曲を書きたくなるっていうか、曲全体として聴くのも楽しいんだけど、ビートの打ち込み方とか、拍の取り方とか、挿し込み方とかが勉強になるっていうか、刺激を受けるんですよね。だからヒップホップとか、もっと言ったら、ブルースとかも好きですねえ。で……なんだったっけな? 最近買ったの。それ言いたくて仕方ないんですけど」

――言ってください(笑)。話の流れだと、恐らく現行のアーティストではなく、再発モノですよね?

塔山「モロにそうです! なんかちょっと、挙げてってもらえませんか(笑)? 最近買ってすごい気に入ったモノがあったんですけど、忘れちゃいました。キャバレー・ヴォルテールと……あとマーク・スチュワートもそうでしょ? エイドリアン・シャーウッドと組んだソロのやつとか……(マーク・スチュワート&マフィアの85年作『As The Veneer Of Democracy Starts To Fade』)」

――ミュートと言えば、デペッシュ・モードとか?

塔山「違うなあ。けっこう有名なやつなんですけど……(ここからスタッフがサイトを元にアーティスト名を読み上げていくが、なかなか出てこない)」

――最初に上がったアーティストから予測して……(アインシュテュルツェンデ・)ノイバウテンとか?

塔山「違います」

――スロッビング・グリッスルとか?

塔山「それ最高ですよ!」

――ようやく出ましたね(笑)。

塔山「あっ、いま思い出してたのとは違うんですけど。でも今回のアルバムを作るのに、スロッビング・グリッスルとスーサイドはめっちゃ聴きましたね。もう大好きですね」

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2011年05月18日 18:01

更新: 2011年05月19日 20:26

インタヴュー・文/土田真弓