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インタビュー

INTERVIEW(3)――キックがすごいことに

 

キックがすごいことに

 

0.8秒と衝撃。_A2

 

――では、ここで私の感想なんですけど……先日のライヴを観て強烈に感じたのが、やっぱり1作目と2作目とのビートの違いなんですね。よりヘヴィーに、攻撃的に変化しながらも、とんでもなく跳ね上がっていて。

塔山「うわー、嬉しいなあ」

――そのビート作りはリズム・マシーンを改造するところから始まった、というお話でしたが、具体的にどんな音が欲しかったんですか?

塔山「これはバランスなんですけど、例えば前のEPの〈エスノ〉のときは、ギターと歌のノリはすごいいいんですよね。だけど低音がちょっとね、これも趣味が分かれるんですけど、ドラムで言う〈ドン・パン〉の〈ドン〉の部分が自分的にはちょっと弱くて。軽いっていうか。ミュートとか、ニューウェイヴの時代のアーティストとか聴くと、キックがすごいんですね。〈パン〉の部分は〈ペチン〉ぐらいなんですけど、〈ドン〉のほうがすごいことになってて。でね、ある機材の雑誌でヴィンテージのドラムマシン特集みたいなのをしてて、それ見てたら、確か普通にYAMAHAのやつだったんですけど、ひとつに〈コンプかけないと使いづらいぐらいのキックが出る〉とか〈キャバレー・ヴォルテールの来日公演でこれ使ってたんだよな~〉とか書いてあって、〈うぉぉ! これ欲しい!!〉って(笑)。僕は好きなアーティストの影響もめっちゃ受けたいタイプですから、そういう細かいところからも吸収しつつ、聴いてる音楽もそうだけど、全部が今回のアルバムに繋がるように作った感じですよね」

――ブログを読むと、寝食を忘れて制作に没頭している雰囲気が伝わってくるんですけど、その制作期間は追い詰められたりしてないんですか?

塔山「ああ~、なんか単純に、自分のなかだけの話なんですけど、今回は1週間で何曲ぐらい詰めれんのかな?ってやってみて。それで1週間に3曲ぐらいずつ作っていってたんですけど、新発見でしたね。人ってけっこうがんばれるんだな、と思って。その期間もバイトとかしてるから、ホントに使える時間って昼とか夕方ぐらいからなんですけど、それから夜中とか朝ぐらいまでやって、2~3時間寝てバイト行って、っていうのを1回身体に癖づけちゃおうと思って1か月ぐらいそれやってたんですけど、やっぱりだんだん慣れてくるっていうか。終わって1週間ぐらいは寂しいんですよね。ああ俺、バイトしかやってねえや、みたいな、なんかスカ食らったみたいな感じがあって。最近は普段の生活にだいぶ戻りましたけど、しばらく駄目でしたね。スタジオ行きたくなっちゃうっていうか、エンジニアの人とかホント、猿みたいな人なんですけど、会いたくなっちゃうんですよね。スタジオがね、俺の生活圏内とそんなに離れてないんですよ。だからね、これはちょっとカッコ悪い話なんですけど、制作期間が終わってしばらくは、1本道が違うのにスタジオの前を通って、電気点いてるの見て、〈ああ、今日もやってんなー〉って眺めたりしてて」

――中学生が好きな女の子の家に思わず行っちゃうのと同じノリですね(笑)。

塔山「そうですね(笑)。なんかね、自分のホーム感がすごいあるんですよね」

――(笑)ビートの話に戻りますけど、〈エスノ〉以降は変化がホントに顕著ですよね。

塔山「それはやっぱりね、ミュート・レコードのアーティストに僕は文句を言いたいです」

――(笑)どうして?

塔山「そんな格好良いものを聴かすんじゃないということですよね」

――そのせいで奮い立ったと?

塔山「そうですね。ミュートとかは格好良いことをだいぶ前にやってたけど、それをいま、知らない人がいっぱいいる。例えばCDの売り場でも、目立つところに置かれているものだけじゃなく、ちょっと奥に手を伸ばしたらめっちゃ格好良い音楽があるのに、そこの部分が品切れになってたりとか……そういうところを、俺らの音楽で伝えたい。俺がブルーハーツを聴いてピストルズを知ったように、俺らを知ったことによって、その棚の奥にあるような幅広い音楽にも繋がっていける音楽にはなりたいっていうか」

 

自身と世間とのせめぎ合い

 

――あと本作に関して言えば、こんなに怒ってる人もいまどき珍しいな、と。身の丈の怒りというか、イギリス的に言うなれば、労働者階級の怒りに近い雰囲気ですよね。

塔山「そうですよ。僕は最後のワーキング・クラス・ヒーローをめざしてますから」

――そういう意味でも、塔山さんが先程おっしゃってた〈ブルーハーツに気持ちを拾ってもらった〉という感覚は、この作品のリスナーの方にもあると思うんですよね。ただ最初にお話したように、ファースト・インパクトはとんでもなく過激なもので。特定の音楽ジャンルを挑発していると取れる言葉もありますし、あとは……例えば、〈僕を殺せ〉とか。そういう言葉もところどころに見られますが。

塔山「〈自分を殺す〉っていうのは、俺のなかではインナー・トリップというか。ブルーハーツもそうですけど、自己主張の部分と世間とのせめぎ合いみたいなところがあるじゃないですか。そこを表現したいっていうか……だからピストルズみたいな陽のパンクっていうよりも、どっちかっていうとジョイ・ディヴィジョンみたいな、陰のほうですよね。あれが悪いことも、これが悪いことも、それはわかったと。で、そこからどうする?っていう。普通だと思って見過ごしてしまっている自分や生活に関わることをもう1回引き締めるというか、イアン・マッケイの言う〈ストレート・エッジ〉と同じですよ。自己との対峙です」

――外部に対する攻撃のように見えて、向かっているのは自分だと。

塔山「外に対する不満もあるから、1回バーッと外の汚いこととかを出しちゃうんですよ。〈外はこうだ〉と。それに対して〈俺はこうだ〉と、そういう方法ですよね。どっちが正しくて、どっちが間違ってるとかじゃなくて」

――アジテーションではないということですね。確かに、まずは〈怒り〉が塊としてぶつかってくるんですけれども、あとに残る感情は楽曲それぞれに異なりますね。

塔山「うん。聴いた人のそのときの気分によっても変わってきますしね。すんげえ怒ってる人が聴いたら暴れ出したくなるぐらいのものも入ってるでしょうし、人によっては、泣いちゃう人もいるかもしれないですよ。こんなこと思ってる人、俺以外にもおるんや、みたいな感じで」

 

言葉もビートのうちのひとつ

 

――それはすごくわかります。なんだか無性に切なくなったりとか……あと本作は、そういう言葉たちがビートのひとつとして機能しているのも特徴的ですよね。

塔山「そうなんです! それを言ってくれたら俺、今日帰ってもいいぐらい。カート・コバーンの言葉じゃないですけど、やっぱり〈ミュージックNo.1〉というか、基本的にメロディーやビートに対して〈音としての言葉〉をどう格好良く挿し込むか、っていうところを重視してるから、けっこう一筆書きみたいなところがあるんですよね。だから歌モノの作詞っていうよりも、ヒップホップのリリックに近い作り方ですよ。日本語って、同じメロディーでも言葉を選ばないと勢いが死んじゃうパターンがすごくあるから、曲全体のビート感みたいなのは意識して書いてますよね」

――“檸檬”“水に似た感情”“女、壊れるビート。” あたりはホントにファンキーで。ビートに巻き込まれるような勢いのあるハードコア・ファンクとも言えるかと思うんですけど、J.Mさんは、こういう曲が上がってきてどう思われました?

J.M.「レーベルの人もどうなるのか心配してるし、でも一切聴いてないし、なのに〈めちゃくちゃ激しくなってるんですよ〉って話だけは聞こえてきたりしてて(笑)。それでタイトルが『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』だから、ああ、今回はもう暴れ倒すんだな、と。エラい攻撃的だな、とは思いましたけど、そういうパンク感は前からなかったわけではなかったので、今回はこういう方向にいったんだな、って」

――パンク感をビート・ミュージックの方向に向けて振り切ってみた感じですかね。

塔山「まあ、次の音源ではさだまさしみたいなのをやろうと思ってますけどね。自分的には」

――はい。話半分で聞いておきます。

塔山「やっと慣れてきてくれた(笑)」

 

 

 

作った自分たちですらビックリした曲

 

――(笑)それで、先行シングル“「町蔵・町子・破壊」”は、このエナジーの塊のようなアルバムを象徴する曲なんでしょうか?

塔山「そうですね。聴きやすさっていうところで言えば他にも候補はあるんですけど……〈町蔵〉はレコーディングの最初のほうで録った曲なんですけど、毎回ね、スタジオ行くと前日に録った曲、1週間前に録った曲をエンジニアの人がかけてくれるんですね。で、俺らはもうアホですから、〈いい曲録れたな~〉とか〈これシングルやな!〉とか、毎日、曲が上がるたんびに言ってるんです。でもね、〈町蔵〉をかけると毎回〈あれ?〉ってなるんですよ。キャッチーではないんですけど、〈せっかく今日すごいことやったのに、前の俺らに負けてんちゃうか?〉って思うぐらいの何かがあったんですよね。あと、〈キャッチーな曲〉という基準でシングルにしようと思った曲はお互い違ってたんですけど、〈あれ?〉って思うよね、っていう〈町蔵〉に対しての評価はいっしょで」

J.M.「2番目候補だったんですよ。お互いの」

塔山「だから〈町蔵〉でいこうと。1週間空けて聴いたとき、作ってる自分たちですらビックリするってことはあんまりないんで、この引っ掛かりはいいんじゃないかな、と思って」

J.M.「いままでにないタイプの曲だったから、これでチャレンジしてみたい、っていう気持ちは自分のなかで大きかった。別にもう、〈ポップ〉で守んなくてもいいや、と思って」

塔山「〈町蔵〉は、アコギがテーマのときにやってたみたいな、1A、1B、ブリッジ、サビ、みたいなわかりやすさを逆になくしたいと思ってて。ピクシーズに〈これ、サビだよね?〉っていうぐらい、サビで〈ウガーッ!〉って言ってるだけの曲があるんですけど、そういう感じの曲にしたいと思ったんですよね。サビに思いっきり〈ゴルァア!〉みたいなエネルギーをぶつけていこうって」

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2011年05月18日 18:01

更新: 2011年05月19日 20:26

インタヴュー・文/土田真弓