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インタビュー

INTERVIEW(4)――テクノは音というよりもアティテュード

 

テクノは音というよりもアティテュード

 

――そうした楽曲が先導するアルバムのタイトルが〈東洋のテクノ〉というのもユーモラスだなあと思うんですが。

塔山「それも歌詞のときといっしょで、言葉のリズムですよね。最初に漢字と数字とアルファベットを入れたいっていうのがあって、〈1暴2暴3暴4暴5暴6暴〉までは決めてたんですよ。そのあとを響きで考えたときに、〈テクノ〉ってすごい格好良いな、って。俺のなかのテクノって、音というよりもアティテュードというか……例えばなんですけど、吉田拓郎とか、井上陽水とかもそうなんですけど、俺のなかではパンクなんですよね」

――ああ、わかります。

塔山「ただ、〈1暴2暴3暴4暴5暴6暴〉に続く言葉として、〈荒ぶるパンク〉とかだと普通じゃないですか。でも、ここで〈テクノ〉が出てくると、いろいろ想像させるんじゃないかと思って。あの~、これは俺がすごい好きな話なんですけど、アフリカの民族の人に野球の道具一式を渡すと、野球のルールを知らないから、全然違うゲームを編み出すっていうのがあって。ホームベースを盾みたいに持って、バットも持って、グローブを頭からかぶって、〈やーい!〉ってなんかやってるんですよ。でもちゃんとゲームになってて、捕まったらボールを1個ずつ並べていくとか、ルールも決まってるんです。野球道具を使って全然違うゲームをやるっていう、そういう感覚がすごい格好良いなって思うんですけど、〈東洋のテクノ〉もそれといっしょっていうか。このアルバムって、いわゆる〈テクノ〉っていうような音ではないじゃないですか。だからこれは、〈東洋で言うテクノなんだよ〉っていう、そういうハッタリ感もあるっていうか……想像させたいんですよね。ただ聴いたときの感覚として、音とのリンクはあるなと俺は思ってて。ビートを象徴する言葉ですよね。だから、俺からしたらパンクと同じ扱いなんです」

――〈東洋のテクノ〉という言葉が孕む得体の知れなさが、〈荒ぶるビート〉をより増強しているところはありますよね。そのビートも今回、ヴァリエーション豊かですけど、制作で特に苦労した曲はありますか?

塔山「そうですね……“東中野トランス盆踊り”はカオスになりすぎないギリギリのところで、ちゃんと正解のほうに引き寄せようと、ものすごく考えた曲で。感覚的な話なんですけど、ちょっと手を離すと飛んでっちゃう凧みたいな感じなんですよ。絶妙なバランスの上にある曲なんで、凧が電線に引っ掛からないように、それでいておいしいところはしっかり保って、という部分で苦労しましたね、すごく。サビのコード進行を変えたり、パーツごとに録り直したり、ホントに何回もやりました。この曲は」

 

 

 

高みに対していつも挑んでいたい

 

――あとタイトル繋がりで訊くと、1曲個人名のものがありますね。“Brian Eno”。

塔山「俺、MGMTが好きなんですね。ファーストの『Oracular Spectacular』(2007年)とかすごい好きなんですけど、あと、彼らも二人組じゃないですか。そういう意味で勇気づけられるところもあって、それで彼らのセカンド(2010年作『Congratulations』)を聴いたとき……」

――同名曲がありますね。

塔山「そうそう。そこで“Brian Eno”っていう曲を書いてるのがすごい羨ましくて。彼らと直接話したことないからわかんないですけど、やっぱり、イーノのことを嫌いだったら、あんな良いメロディーは書かないと思うんですよ。あと、ちょうど自分が、さっき話したデヴィッド・ボウイの『Low』みたいなアルバムを聴いてたっていうのもあって」

――ああ、『Low』にもイーノが関わってますね。

塔山「そうなんです。やっぱり僕にも〈ブライアン・イーノ愛〉がありますから、そこをMGMTの“Brian Eno”と共有しつつ、戦いたい、っていう。高みに対していつも挑んでいたいっていう気持ちがあるんです。あとね、MGMTのセカンドのことを、ファーストより評価が下がったぐらいに言う人もいるじゃないですか。それがすごく悔しいのもあったんで、それだったら“Brian Eno”って曲を俺らも引き継ぎたい、って。そういう共有感と、オマージュを込めてるところはありますね。音としても、妙なシンセ・ポップみたいなところもあって、自分的にはいちばん『Low』みたいな世界観が出せてる曲なんですよね。で、またね、こういうことをやっとくと、次への創作意欲が半端なく出てくるんですよ。手本が良ければ自分も伸びるんですよね」

――そんなふうに、偉大なる先人に対して自分たちのスタイルで立ち向かっていく、というのがバンドとしてのモチベーションなんでしょうか。

塔山「そうですね。やっぱり、先人に対しての尊敬の念を持ちつつ、超えてやる、みたいな感覚はありますよね。先人から受け取ったものを、自分なりの解釈でまた次の世代に伝えたいっていう。だから、ブルーハーツが好きだからといって、ブルーハーツみたいな音楽はやらない。好きだからこそ、彼らから受け取ったエネルギーを俺らのカラーで出していく、っていう感じですね」

――その〈立ち向かう〉という姿勢は、思想的な意味でのパンクにも通じていると思います。

塔山「ありがとうございます。嬉しいですね。ホントに」

 

みんなが興奮できる曲を書くだけでいい

 

――で、新作については以上なんですが……最後にひとつだけ。塔山さんって、本名じゃないですよね?

塔山「そうですね」

――これほど主張のある音楽を提示するにあたって、〈塔山忠臣〉という別人のクレジットにされているのはなぜかと思って。

塔山「0.8秒と衝撃。って、俺のなかではそれもテーマにあって始まってるんですけど……ちょっと暗い話になっちゃうんですけど、幼馴染の友達が突然、交通事故で亡くなっちゃって。それが17ぐらいのときなんですけど、そいつの名前が塔山忠臣だったんです。まんま、漢字も。それで、自分が音楽をやりはじめて、自分が大事にしてるものを伝えるっていうことを考えたときに、そいつは自分のなかで大事にしてる部分の象徴ではあったんですね。ホントに仲良くて、兄弟みたいなやつで……だからそこで、自分の意志を示したいなと思って。実際の塔山忠臣からしたら、〈いま〉はもう失われた時間じゃないですか。

――そうですね。

塔山「もう亡くなって、いないわけですから。そこを俺が作っていこうかなと思って。あと、俺だけで一人占めすることもできないような芸術を作りたい、っていう気持ちもあったんで、その象徴として、塔山忠臣の人生をフィーチャーするっていうのも、俺としてはすごいピュアな印象があったんですね。死んでいないやつは欲求もなにもないじゃないですか。そういう斜陽感は自分のそのときの気分にも合ってたし、さっきの先人の意志を継ぐじゃないですけど、塔山忠臣の名前を借りることによって、自分から亡くなった人もそうだし、この間の地震にもあてはまると思うんですけど、自分の意志と反して亡くなった人たちの気持ちみたいなのを象徴したいなと思って。まあ、だからブログのタイトルも〈塔山忠臣は二度死ぬ〉とかなんですけど……自分自身、塔山忠臣という名前を背負うことによって、忘れちゃいけない大事なことを、いつでも思い出せるじゃないですか。人って落ちてるときはいろんなものに目を向けられますけど、ちょっと調子良かったり、褒められたりすると、やっぱり浮つきがちになる。でも塔山忠臣としてやってる限りは、みんなが格好良いって思う、興奮できるような曲を書くだけでいいんだろうな、っていうことにいつでも立ち返れるんじゃないかな、って……」

――ピュアな原点に。

塔山「うん。初心ですよね。なんでこのバンドやりはじめたんか、っていうところに帰れるんで。そこは忘れずに、これからもやっていきたいと思いますね」

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2011年05月18日 18:01

更新: 2011年05月19日 20:26

インタヴュー・文/土田真弓