インタビュー

LONG REVIEW――0.8秒と衝撃。 『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』

 

0.8秒と衝撃。_J

鬼のように繰り出されるキックの乱打と暴力的にうねる重量級のギター、矢継ぎ早に放射される挑発的な言葉。〈怒り〉を原動力としたパンキッシュな踊り念仏“「町蔵・町子・破壊」”を冒頭に据えた0.8秒と衝撃。のセカンド・アルバム『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』は、言わば、マッシヴなダンス・グルーヴを旗印に蜂起されたライオット・アルバムである。驚異の瞬発力をもって跳ね上がるビートが聴き手を扇動し、この暴動を、対岸の火事として傍観することを決して許さない。そんな衝動的なグルーヴが――その実、緻密なリズム・アンサンブルで構成されたビート・オリエンテッドなハードコア・サウンドが、ここにはある。

パブリック・エナミー+アタリ・ティーンエイジ・ライオットな爆裂ロッキン・ヒップホップ“檸檬”では噛み付かんばかりのフロウで攻撃性を露わにし、USインディー・シーンに対する東中野からの回答とも言える(?)“東中野トランス盆踊り”では日本のトライバル・ビートをファンキーにハード・ロック化。さらに、80s風のキッチュなシンセを随所に散らしながら加速する“Brian Eno”では2分40秒ほどの間でエキセントリックな組曲を構築するなど、実験的なアイデアに満ちた全9曲。どれも、とんでもない昂揚感を無条件に引きずり出す熱量を孕んだ楽曲たちである。

とは言え、本作は衝動のままにすべてを焼き尽くして終わる作品なのかというと、そうではないのが不思議なところだ。〈怒り〉に翻弄されたあとに残るのは、聴き手によって異なるとは思うが、私個人としては〈切なさ〉や〈喪失感〉だったりする。例えば、上述の“町蔵・町子・破壊”やシド・バレットに捧げられたと思われる“溺れるcelloとカシス”には、初作『Zoo&LENNON』に収録の美しいミドル・チューン“黒猫のコーラ”“この世で一番美しい病気”などと同一線上の世界観が広がっているような気がする。

まるで劇物のようなインパクトで襲いかかる今作においてさえ、彼らの持つ詩情がそのままに保たれているのは、J.M.の声を多面的に活かすという理知的な演出による部分も大きいだろう。だが、その土台をもっとも力強く支えているのは、やはりソングライターである塔山忠臣のストイックかつ誠実なパーソナリティーなのではないか、と思うのだ。彼は、一瞬にして失われるものや、取り戻すことができないものを前提としたうえでの〈いま〉を描いている。どれほど過激な言葉が畳み掛けられようとも、そのひとつひとつをかき集めてみれば、そうして日々を過ごす彼自身が浮かび上がってくる。

だからこそ、彼らがたった二人きりで、地面をしっかりと踏み締めて、力の限りに振り絞る刹那的なシャウトに、私は全幅の信頼を置くことができるのだ。温故知新をオルタナティヴに成し遂げることで独自のポップネスを獲得したプロダクションはもちろんのこと、本作の根底にある、どうあっても壊れることのない歌モノとしてのタフな強度にも、称賛を贈りたいと思う。

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2011年05月18日 18:01

更新: 2011年05月19日 20:26

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